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ピンク頭の男の手によって目の前に並べられていく、二人分の食卓。
白米に白味噌の具沢山味噌汁、出汁巻玉子、焼鮭、いんげんとにんじんの胡麻和え、コールスローサラダに白菜と胡瓜の漬物……。
「……すごいな」
料理屋のように一品一品が小鉢や皿に盛られている。美しく配膳されたそれらを見て俺は素直に感動した。
「いつもこんなに作ってんのか」
まともな質問が口から出て来た。少し冷静になれた気がした。
「料理が好きなんだ。最近は家電にハマってて電気屋に入り浸ってる。炊飯器とか魚焼きグリルとかさ電気鍋とかさ、見てると楽しくってしょうがない」
無邪気に言うが、かなり悠々自適な生活をしているらしい。
「こんなところに一人で住んでんのか」
「今だけだよ。家は横浜」
「今だけ? 君、幾つなの?」
「二十一」
なるほど、見た目通り若い。聞かなければ良かった。俺に年上としての威厳はもうない。
そうか。ニット帽の下はこんなピンクの頭だったのかと合点してーー。
ニット帽?
俺は完全に思い出した。
「昨日の店で……?」
「そうだよ。急に倒れるから吃驚したよ。あんなうるさいところで眠りこけるとかないから。大変だったんだからな。放置しても良かったんだけど、店の人に連れ帰ってって言われちゃってさ。ここ、あんたの会社にも近いと思うよ」
指を差された方を見れば、ソファの前のローテーブルにストラップ付きの俺の社員証と財布があった。
「………」
引き抜いたのか、俺の個人情報……。思わず背筋が凍った。
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