第二話

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   そもそも何故〈そういう雰囲気〉になるのか?  彼が男の俺に献身的だからいけない。この直ぐに触れられる距離感も良くない。  だから、彼が悪い……?  彼の名前が『坂巻』であると言うことは知り得たが俺から名前を呼ぶことはない。「なあ」とか「おい」で済む距離にいるからだ。例によって彼は俺を「マサチカ」と呼ぶ。共通した話題はニュースや天気。互いに警戒心は解かれていないように思うのに。  俺がここに来るのを止めるのは有り得なかった。  週末のルーティンが出来上がってから二ヶ月が経った十二月のある夜の事。  俺のいる部屋に坂巻がやって来た。  !?  しかも、ピンク頭じゃなかったし、眼鏡もしていなかった!  !?  元より黒髪だったらしい坂巻は能面仕様の俺の動揺に気づくことはなく、枕を抱え、「一緒に寝よう!」と無邪気に言った。  それはない!  とは思ったが、変な空気を作るわけには行かないので、 「いいよ」と俺はスンとして場所を空けた。内鍵はあるが面倒なので掛けていなかった。  変な意味に捉える方が間違っている。俺は念じるように思った。  坂巻は俺の隣に入って来て、直ぐに寝た。    は?  俺がクィーンベッドの端で丸まっていると、共有の上掛けを引かれてしまうから、仕方なしに近寄らねばならない。仕方なしにだぞ。その内に良い匂いがしてきて、ーー気づけば、朝。  一度あれば二度目がある。二度目があれば三度目も。いつも俺が目覚める頃に彼は傍にいない。  味噌汁の匂いがする。今朝も和食のようだ。  
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