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「何考えてんの、あんた……」
「え?」
半年ぶりに会った母親に不審がられる俺。
「今日クリスマスイブだよ」
「知ってるよ」
「これ、手作りだよね?」
「見ればわかるだろ」
「見ればって……。これ、貰ったんでしょ?」
「貰った」
母は深い溜息を吐いた。
「そんな子に育てた覚えはないよ、信じられない。呆れちゃう」
「何だよ」
「おまえ……、もしかして鈍いのか?」
横から割ってきた兄が呆れたように言った。
「おまえと食べたかったんじゃないのか? これは」
つまり、こう責められている。
手作りの、しかも俺が一番好きな類のケーキをクリスマスイブ前日に貰い、それを平然と受け取り手に提げて帰り、剰え実家に来て、作成者がいない状態で皆で分けて食べようと言う発想がおかしいと!
言われるまで俺は何も考えていなかった。この上で男から貰ったと言えば更なる混乱が生じるだけだ。
俺は黙るしかなかった。
「私と仕事どっちが大事って言われたことがあるって前に言ってた!」
兄の娘の舞が煽ってきた。
「また振られちゃうよぉ?」
小学校高学年の女子と言ったらもう大人のようなもの。最近急激にませて来た。聞かれたからその経験があると答えただけなのにまるで俺が自ら言ったかのように誇大表現して非常に生意気だ。
兄嫁は黙して、ケーキを切り分けてくれた。少し俺に呆れているように見えたが。それから、俺に毒づいていた姪が切り分けられたケーキの皿をテーブルに並べてくれた。
ついでに兄嫁が入れてくれた紅茶のいい匂いがした。
席に着いて食べ始めるとーー。
「チョコレートコーティングして金箔振って、売り物みたい」
「手作りなんて驚いちゃうわねえ」
「甲斐甲斐しいですねぇ」
「作るの大変だったでしょうねぇ」
「美味しー。凄く美味しー」
そして全員一斉に俺を見る。普段無表情な父親まで何か言いたげな顔をしていた。
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