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第三話
月曜の全体朝礼は三好営業本部長の挨拶から始まる。
全フロアにある全てのテレビ及びオンライン上でリアル配信され、その間の業務は強制的に停止される。
三好さんの男前が過ぎて、定年間近の女子含めて女性社員は一様に釘付けになっているらしい。一方の管理職クラスは若干硬い表情で仰ぎ見、若手は羨望の眼差しを向けて動作を止める。
その間は社内に一体感が流れる。
画面から三好さんが消え、社長に変わった瞬間に緊張が解かれて、おのおの動き始めるのが慣例だ。
社長はまだ話しているが、俺も手元の書類確認に移った。気持ちは腕捲りをしての心機一転、さあ、今週一週間また社畜生活だ。
で、俺は金曜になれば歩く屍となるのであった。
そんな俺を奈落に突き落としにかかる、十九時を回ってからのセクハラ相談。
「聞いて」
実に偉そうに腕を組んで俺を威圧する四歳年上の広報部員。セクハラは同情するが聞きたくないとは言えず、
「あのですね」
カウンセラーと同性社員が対応する案件だと何とか宥めようとする俺の静止を聞かずに、ミーティングルームに俺を引っ張って、性的嫌がらせについてあけすけに語り出す広報部主任。
週明け上司から連絡をさせるから待って欲しいと繰り返す俺をまるでサンドバッグにして言いたい放題だった彼女が帰る頃には二十時を回っていた。俺自身の仕事は残っている。しかし俺は女の呪詛ともつかない恨みつらみにあてられて虫の息。
フラフラと自席に戻ると、今日も他部署の人間の送別会に自発的参加の成増さん含めフロアには誰もいなくなっていた。
毎週のようにある送別会。そろそろこの会社は潰れるんじゃないか。その前に俺が壊れたいと自嘲しているところに私用携帯電話のバイブが鳴った。
坂巻からだった。
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