第一話

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「オジサン、悲愴感漂ってるねー。この世の終わりみたいな顔してるじゃん。テンション低過ぎ。サラリーマンて金曜日が一週間の内で一番好きなんじゃないの? ほら、もっと飲んで。夜はこれからだろ」  男が周囲の騒音にも負けないぐらいの声で快活に、俺をディスってきた! さっきとは打って変わって今度はよく通る高い声でーー。 「溜息ばっかりだね。疲れてるなら早く家に帰ればいいのに。どうしてこんな騒がしいところに一人で来たの? 待ち合わせじゃないよね?」  図星を突かれて苛立った俺は手元のビールを空きっ腹に一気に喉に流し込んだ。   「俺は」 「うん?」 「まだオジサンじゃない」 「あ、そこに拘るんだ」  確かにその男は俺に比べたら若い。でも俺も会社じゃ若手で通っている。そこまで歳の違わない奴にオジサンと言われたくはない!  男はカウンターの中の店員に声を掛けて、さっきとは別のサーバーを指差してもう一杯頼んでいた。見ると男のビールは殆ど減っていなかった。支払い後、男は受け取ったジョッキを俺の前に置き、 「はい、どうぞ」 「………」  俺はわざと男の目を覗き込むように凝視した。  すると男は俺から目を逸らして、カクテルを作る店員の方に目をやり、 「ヘェ〜、ああやって作るんダァ」  なんて白々しい……。
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