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あったかい。
眩しい。
寝返りを打って布団を被り直した。
ああ、気持ちいい。俺の布団はこんなにフカフカだったかなあ?
ご飯の匂いがした。母さんが用意しているんだ。
味噌汁と、魚? 米? 美味そうな匂いが入り混じっている。
朝はパン派だっただろ……。まあ、こんな日もあるか。
いや。
いや、そうじゃないだろ。
違う。
ここは。
「おはよう」
包まっていた布団からそろりと顔を出した俺を覗き込む男がいた。
ヒュッと俺の喉から変な音が出た。
「お、は、よ、う」
とわざとらしいアクセントをつけて言うのは、ピンク色の髪をした、眼鏡の男。
ピンク!?
「お、おはよう……?」
誰!?
男が俺の傍らに膝を突いていた。
眼前に広がるのは、モデルルームのように広く、洗練され、整頓されたリビング。
俺はソファに寝かされていたらしい。起き上がって辺りを見回した。
何処だここは。
腕時計を見れば八時。朝だ。
身体が臭い。酒場の匂い、煙草の匂い、何処でついたか分からない香水の匂いが相まって気持ち悪くなるほどに。
「匂うよね。思ったよ。ご飯の前にシャワー浴びたらどう? はい、立って」
腕を引っ張られて連れていかれた洗面所に、背中を押されて押しこめられた。
「タオルと着替えは置いてあるよ。何かあったら呼んで」
そのままバタンと壁面と同色の白い扉が閉められた。
寝惚け頭で諸々の確認しながら、取り敢えず全部脱いだ。バスルームに入ると浴槽に湯が張ってあった。
風呂場の一面は全面ガラス張りで、湾岸の方まで都会を見下ろせた。
俺はもうパニック寸前だ。
……ハア!? どこの金持ち!? 一体ここ何階!?
柑橘系のいい匂いのするシャンプーに頭が蕩けそうになった。
俺はそろそろと湯船に浸かった。
あー、気持ちいい。
って、そうじゃない。違うだろ。
風呂から上がり、フカフカの異様に大きいバスタオルで体を拭きながら、狐につままれたような感覚は一向に解けないものの、気分は高揚していた。
借りた服を着るとぴったりだった。ピンク頭の服だろう。彼と俺の体型は似ている。実際は俺の方が若干大きいかもしれないが。
何が何だかもうわからない。もてなされたことで、体は確かに喜んでいた。
「どうだった? 風呂」
洗面所を出たところで、突然後ろから声を掛けられて吃驚した。わざわざ廊下で俺を待っていたようだ。
「よ、良かった……?」
「それは良かった。昨日は良く寝てたな。風呂でリラックス出来た?」
ピンク頭が、ニッと笑った。
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