第一話

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第一話

「今日の飲み会、遅れるなよ」  俺が席に着いた瞬間、向かいの席に座る成増さんが顔を上げて言った。それからの、 「おはよう」 「はいはい、勿論わかってますよ。おはようございます」  俺は鞄から取り出したラップトップを開きながら、気心の知れた先輩社員に応じた。 「成増さん、会議の資料作成はどうなってますか? まだなら手伝いましょうか」 「さっき終わった。おまえ、昨日も十時過ぎまでいたろ。人のを手伝う余裕あるのか」 「成増さんもでしょ。しかも今朝は何時からいるんですか」 「……今日は定時退社だぞ」  朝からそのつもりでいろとのお達しだ。飲み会をドタキャンしがちな俺に釘を刺して来た成増さんは主任で、俺より入社が五年早い。新婚の筈だが目元の隈は酷く、ネクタイが歪んでいるのがデフォで、最近はいつもくたびれている。そして今日は金曜日、社畜の性で一週間全力を出しきって余力はほぼないと見える。  対して俺はそれを若さだけで乗りきっていた。俺達の法務部から先月営業部に二人異動になった。人は減っても増援はない。俺は下っ端なので雑務が増大した。俺は今期労組の名前だけ幹部だがこの最低な職場環境に文句を言う時間すら惜しい。法務部がこれだから社内コンプラは完全に崩壊していた。  俺達は自他共認める限界社畜だ。
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