かけがえのない家族

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「ねえちゃんが、なやんでるみたい」 「そうね。ハルは、甘えん坊な父さんと母さんに、疲れたんだわ」 ハルがふらふらと歩く背後で話すのは、誰の目にも留まることない、透き通った姉妹だ。  ハルはここのところ、電車の移動に片道一時間かけ、それからも沢山歩き、別々に住む両親を訪ねていた。どうやら父が急病で入院したらしく、病院やアパート、買い物、自宅を往復する日々が続いている。その距離は計り知れず、底が平たい靴では当然、足を痛めるだろう。案の定、どこか足先を庇うような変な歩き方をしている。今日はずっと天気がどんよりしているお陰で、商店街のアーケードの影が、余計に暗い様子を掻き立てていた。 「本を見せて、気付かせましょう」 「でも、ひらいてくれるかなぁ?」 姉妹は暫し顔を見合わせた。そこへ、姉が目をパッと見開くと、それに合わせて妹も表情を変え、互いに指を差し合って閃いた。  姉妹は畳んでいた翼をふわりと羽ばたかせ、互いに一枚ずつ羽を抜き取る。大きさの違う二枚は、姉がおもむろに腰のどこかから取り出した本の、あるページに挟まれた。 「ちゃんと、きづいてくれるかなぁ?」 「今は、ぼさっとしてるから、蹴飛ばすところに置いたらいいわ」  姉妹は、まるで幽霊のように歩くハルを追い越すと、道端に本を置いた。
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