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鍵をめぐる物語 ~哀れな鍵男~
魔女を倒した4人は村に帰ると、盛大な祝祭が開かれた。
祝祭が終わると、4人は現代に帰ろうとするが、帰りの扉には鍵が掛かっていて帰ることができない。
行く先を教えてくれる迷子の道標者に聞くと、「哀れな鍵男に会いに行け」と言われる。
道標者の話では、鍵男は村はずれにある安寧の洞窟にいて、「世界中の扉を開けられるほどの鍵を集めて、どの扉も開けることもなく、鍵の重さで動けなくなった哀れな男」らしい。
4人が安寧の洞窟に行くと、洞窟の奥の暗闇から鍵が揺れる音がした。タカがランプを翳すと、そこには体毛のように無数の鍵に覆われた人が座っていた。鍵の隙間から見える目だけが爛々と光っている。それがなければ鍵の山にしか見えなかった。
「ほっほっほ。よく来たな、勇者たち」
鍵男が話すだけで、鍵が触れ合う金属音が洞窟に響く。タカが聞いた。
「現代に帰るための扉の鍵がないんです。あなたが鍵を持っていると聞いたのですが」
「おお、そうか、そうか。お前たちの鍵は、どうだろうな。あるかもしれんし、ないかもしれん。一人ずつワシの前に来てくれんか」
そう言われて、まずタカが鍵男の前に立った。すると、鍵男がガチャガチャと揺れ、鍵で覆われた腕を前に出した。
「これがお主の鍵じゃ」
タカはそれを受け取ると、他の2人も同じようにして鍵を受け取った。最後にホリーが鍵男の前に立った。
鍵男は一回ガチャリと音を出して揺れると言った。
「悪いがお主の鍵は持っていない。お主の鍵は、お主が持っておる」
ホリーはポケットを調べていくが鍵は見つからない。鞄を探ると本が出てきた。ハッとして本を開いた。そこに鍵が挟まっていた。それは読んでいる時は絶対になかったものだった。
4人は鍵男にお礼を言って去ろうとした時、鍵男は問うた。
「鍵は鍵であって、鍵でしかない。この意味が分かるかな?」
4人は顔を見合わせた。少し間を置いてキジが答える。
「人は鍵に様々なメタファーを見るけど、それはただの鍵だってことだろ」
「ほっほっほ。聡い子じゃの」
それだけ言うと、鍵男は目を閉じた。すると、そこには鍵の山があるだけのように静かになった。
別れの時、それぞれが現代でも会おうと約束して扉を越えていく。役目を失った扉は一瞬で朽ちて壊れていった。
最後まで残ったホリーが世界を振り返る。少しずつ氷が解けていく世界に不思議な懐かしさを感じる。
わずかな戸惑いの後、ホリーは扉を開けると、その向こうに歩んでいった。
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