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運命の一冊の噂
中学2学期の期末テストが終わり、デスゲームが終わったような緩んだ空気が教室に広がった。
あちこちで「どうだった?」や「終わった!」という声が上がる。私もゆっくりと息を吐いて、緊張の糸を緩めた。
そこに楓が話しかけてきた。
「葵、テストどうだった?って聞くまでもないか」
「ううん。今回は難しかったと思うよ。楓は?」
「私は全然。ギリギリ赤点は避けられるかなって感じ。それで、葵はこの後、予定ある?」
楓がもじもじしながら聞いてきた。今日は午前で学校が終わる。塾に行くまでに時間はある。
「大丈夫だけど、どこか行くの?」
大きな魚を釣ったように楓が嬉しそうに顔を近づけて来た。
「そう!葵は知ってる?とある書店に読むと願いを叶えてくれるっていう本があるらしいんだ。それは一人ひとり違ってて、その人の運命の一冊って呼ばれててね」
「でも、それって噂でしょ」
「いやいや。2組に彩月っているでしょ。最近高校生の彼氏ができたって自慢してるじゃん。あれは運命の一冊を読んだからなんだって」
確かにそれは噂になっていた。でも、それが運命の一冊と関係があるのは知らなかった。
「それでね、一人で抜け駆けするのもどうかと思ってさ。行かない?」
運命の一冊は信じていないけど、本屋には興味があった。それに、楓は一人で行くのが心細いのだろう。だから、私は頷いた。
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