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スタリエ書店
そこはなんの変哲のない本屋だった。
商店街の途中にある個人経営のこじんまりとした店構えで、歩道に陳列台を置くこともなく幟もない。窓は日焼け防止なのか、覆いがされていて中が見えない。「スタリエ書店」という日焼けして見づらい暖簾がなければ誰も本屋だと気づかないだろう。気付いたとして、怪しくて中に入ることを躊躇うだろうが。
躊躇っているのは楓も同じようで、私の手を握って「行こう」と引っ張った。
中に入ると「いらっしゃい」と右側からしわがれて落ち着いた声がした。びっくりしてそっちを見ると、そこにはレジがあり、人の良さそうなお爺さんが座っていた。
軽くお辞儀をして店内に進んでいく。
中は奥に広く、置かれている本は最近有名な賞を受賞したものが平台に置かれていて、他の本屋と似た感じだった。でも、客は一人もいない。
「あ、猫」
楓が平台の一画に置かれた座布団で丸くなっている黒猫を見つけて撫でた。
「ここは猫も店番してるんだね」
「みたいだね」
私も猫をひと撫でした。柔らかな毛が手に心地いい。
すると、猫が起き上がり、伸びをすると座布団から降りて店の奥に向かった。少しすると振り返った。
私たちは顔を見合わせた。
「ついて来いってこと?」
冒険の始まりのようなワクワクを感じながら猫に誘われて店の奥に行くと、そこには天井まで届く棚にぎっしりと文庫本と単行本が乱雑に収まっている一画についた。タイトルは見たことがないものばかりで、出版社が書かれていないものもあった。
「この中に願いを叶える運命の一冊があるの?」
楓が棚を唖然と見上げて呟いた。
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