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願いの効果
テストの返却はいつも絶叫と笑いで教室が満たされる。
「静かに!早く席につけ。今回のテストは高校受験を見据えて難しいものにしたから、やっぱり平均点は低いな。それでも、頑張ってる奴はいる。このクラスに満点に近い点数を取れる生徒もいるんだ」
そう言って、先生は私を見た。
名前は出さなくても、それでは誰がその点数を取ったか分かってしまう。居心地が悪くなり、返ってきた答案を凝視した。
テストの解説授業が終わると、「なあ、川名が満点って本当?」と言って、高梨君が話しかけてきた。いつもは目も合うこともないし、話したこともないのに。
「えっと、うん。難しかったけど」
なるべく相手が不快にならないように言葉を選んだ。その不安なんか気にしないのか高梨君が前の席に座ってきた。
「すげーな。俺さ、S高校に行きたいんだけど、このままじゃ難しそうなんだ。だからさ、良かったらだけど、勉強教えてくれない?」
突然のことで理解が追い付かない。高梨君が私に頼みごとをしている。顔が熱くなるのを感じる。
「うん、いいよ。放課後は塾があるから、休み時間とか自習時間とかだけになっちゃうけど」
「本当か!やった!じゃあ、よろしくな!川名!」
もう合格が決定したように喜び、高梨君は私の手を握った。
恥ずかしさと嬉しさで、助けを求めるように楓の方を見ると、楓は木島君と楽しそうに話していた。楓は運命の一冊に「木島君と付き合えますように」と願っていた。もしかしたら、その効果が出始めているのかもしれない。
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