狂刀のヘンバー

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赤はやがて黒に変わる。 俺は小さい頃から、それが当たり前だと思って生きてきた。 だから、あの女の髪も次第に黒に染まるんだ。 今日も俺は、アルアング家の一人娘を見ていた。 赤色の髪に穏やかな顔はまるで聖母のよう。 いや、天使のようだ。 彼女の名前はアリア・アルアング。 アリアは、生まれてはいけない不吉な星に生まれてしまったいわゆる忌み子。 アリアが生まれてすぐに母親は他界。 アリアの父親は今の地位を守るため、アリアの出生を知ろうとするものを排除するために、俺たちを雇ったのだ。 そのことをアリアは知らない。 俺たちの存在を庭師か何かだと思っているくらいだろう。   これまで長くアルアング家にいるが、未だに彼女と話をしたことがなかった。 彼女と話がしたい。 そう思って歳月だけが過ぎていく。 俺みたいな人間が白い翼をもった娘と会って良いのだろうか。 そうやって躊躇い、いつも話ができないでいた。    *** いつもの暗殺を終え、俺たちは木のてっぺんに立ち、満月を眺める。 今日は月が低い。 俺はコハに尋ねた。 「お前は何のために人を殺している?」 コハは怪訝そうに 「そりゃあ、アルアング家の命令のためだろう?」 俺は首を振った。 「違う、そういう意味じゃない」 コハは言った。 「じゃあ、どういう意味だ?」 「……わからない……でも、確かに違うんだ」 確かに命令のために人を殺している。 でも、何かが違う。 そんなもののために自分達は汚れているのか。 彼女が好きだから? 彼女を守りたいから? 俺が赤く汚い翼になったのは? 悪魔の翼になったのは? そんな理由のために俺は見えない白い翼を自ら汚しているのか? 白い翼を汚すほど彼女を守りたい? 守る? 何を? 翼を? 彼女を? 彼岸花を? 俺はふいに背中に軽くにふれた。 翼などみえないし、生えているわけがない。 それなのになぜか、小さい頃に教えてもらった言葉が頭をよぎった。 俺たちには白い翼などないのだ。 あるのはただ、赤く染まった汚い翼。 ――-悪魔の翼。 人を殺すのは、良い気分じゃない。
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