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「告白するなら面と向かってしてほしい、とか言ってんのは先の見えてないやつらだよな」 「上手(かみて)くんってSNS始めたらすぐ炎上しそうだよね」  僕の前の席に横向きで座る下山美沙(しもやまみさ)はおかしそうに笑った。  いつも昼休憩が始まると彼女は前の席にやってきて僕に話しかけてくる。最初こそ戸惑ったものの、いつからかルーティンとなっていた。 「私は面と向かって言われるほうが嬉しいけどなあ」 「今は嬉しくても、どうせいつか忘れてくだろ。人間は一時間後には56%しか覚えていない、ってエビングハウスも言ってたぞ」 「誰それ」 「ドイツの心理学者」 「へえ、後で調べてみよ」  下山さんはブレザーのポケットからスマホを取り出した。  だが右手に持ったままで動かす気配はない。 「てわけで告白は手紙に限る。記憶が薄れても読み返せば思い出せるし、手書きなら真剣みも伝わるしな」 「まあそれはそうかも」 「だろ。だから僕は告白されるなら手紙派をアピールし続けてるわけだ」 「進捗何枚?」 「告白なんてそう簡単にされるわけないだろ」 「アピール強すぎて引かれてんじゃない?」  なに言ってるんだ。事前に告白方法を指定してもらったほうが告白する側としても安心だろうに。  けど確かに「ラブレターが欲しい」と宣言するだけでもらえるほど僕はイケメンなわけじゃない。 「ラブレターをもらうためにはまず女子にモテる方法を考えねば」 「目的を見失ってる気がするよ」 「人間って不器用な生き物だよな」 「その点についてエビングさんはなんて?」 「まあそういうこともありますよ、とかなんとか」 「やっぱ調べるのやめよ」  下山さんは右手に持っていたスマホをポケットにしまう。結局一度も画面が光ることはなかった。 「とりあえず僕はこれからラブレター蒐集大作戦を練るのに忙しい。そろそろ下山さんも自分の席に」 「そういえばさあ」  話を締めようとした僕を遮るように下山さんは次の話題を振ってくる。  僕は教室の壁に掛けられた時計をちらりと見た。  もうすぐ昼休憩が終わる。時間がない。考えてみれば彼女の話に付き合ってやる義理もないじゃないか。  よし無視しよう。そうすれば彼女もいずれ自分の席に戻るはずだ。 「ぜんぶ集めるとなんでも願いが叶う『伝説の七枚ラブレター』って知ってる?」 「詳しく聞かせてください」
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