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「上手くんって記憶力上げるために努力してることとかある?」 「普段から必要ないことは憶えないようにしてるかな」 「たとえば?」 「変な方向に飛び散らない爪の切り方とか、電池の消耗が少ないスマホの設定とか」 「絶対憶えといたほうがいいやつよそれ」  跳び箱の一段目をずらして中を覗き込んでいる下山さんの声はくぐもっていた。僕はバレーボールがたくさん入ったカゴを動かす。  視聴覚室、校舎裏、使われていない北門と巡り、次に僕たちは体育倉庫を探っていた。 『校内の告白スポット』なんて曖昧な指示だったが僕たちは順調にラブレターの数を増やしている。  人の少ない場所を探せばいい、という目論見は正しかったようだ。   「もっと大事なことを憶えとくためには仕方ない。脳の容量は決まってんだから」 「なんかパソコンみたい」 「似たようなもんだよ。無駄なデータは削除しなきゃな」  僕は折りたたまれた卓球台を動かす。車輪がついているとはいえ重く、ゆっくりと移動していく。蛍光灯に照らされた埃がきらきらと舞った。  そうして現れたアルミラックの上に目的の物を発見する。 「あったぞ」 「お、これで五枚目だね」  卓球ラケットの赤いゴムを剥がそうしていた手を止めて下山さんはこちらを見た。そんなとこにあるわけないだろ。   「じゃあ開けてみるぞ」
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