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1.
12月、やけに寒い朝だった。
アラームを5分刻みにかけなければ起きれない俺が、
アラームが鳴る前に起きるという歴史的快挙を達成した。
手取り16万のフリーターの家に、暖房なんて豪華なものは無い。
それゆえに冷えた空気が瞼を刺したのだ。
身体を起こして窓に触れると、結露が指を伝った。
外は一面銀世界。ああ、ついに積もってしまった。
ここ最近あった猛烈な吹雪のせいだ。
地面の雪かきをするおばさんが目に入る。
その姿を見た学生が挨拶をしている。
どこにでもある光景。確かに自分も見てきたはずの景色。
なのに、別世界のように思えることが、よくある。
現実から目を逸らすように、バイト用のリュックを背負って家を出た。
自宅から徒歩15分のコンビニ。そこが俺のバイト先だ。
大学生の頃から世話になっていて、かれこれもう5年目。
新人の頃は、厳しい主婦さんとわけわかんねぇ外国人に囲まれて、
居心地の悪い場所だった。
それでも無心で通い続けていたら、店長以外知らない奴になっていた。
俺はバイトリーダーに昇格し、人を教える立場になった。
それだけ長い時間が流れたのだ。
ここで俺が得たものは、客に下げる頭だけ。
それさえ持てればもう大人だって、去年辞めたリーダーが言ってた。
そんなもん持って大人になるくらいなら、俺は一生子供のままがいいよ。
コンビニに着くと、朝9時だというのレジ前に列ができていた。
並んでいるのは地元の高齢者ばかりだ。
…ああ、そうか。今日からおでんの販売が始まったんだ。
「おつかれさまでーす。」
聞こえるか聞こえないかくらいの声量でスタッフルームへ向かう。
「あ、塚田君!助けてくれ!」
そんな俺を店長は見逃さなかった。レジで情けない悲鳴が聞こえた。
…はあ、仕方ねぇ。
この店最速と言われた俺のレジ打ちを見せるときがきたみたいだ。
そんなことを心の中で思いながら、頬が緩んだ。
大丈夫。こんなことで笑えるなら、俺はまだ大丈夫だ。
きっと生きていける。
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