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「不注意、とは考えないの?」
北白川の屋敷のどこかしらの出入り口から、紫純琥珀蝶が侵入した可能性はないのかと初さんは目を細めながら尋ねてきた。
「紫純琥珀蝶が飛び交う世界で、不注意な人間がいると思うか」
蝶の存在を忌み嫌っていた両親のことを考えると、使用人の過ち一つすら許さない勢いで屋敷の戸締りだけは厳重にしていたはず。
「まあ……うん、そうだよね」
様々な案を寄せ集めて、二人は妹と、北白川のことを庇ってくれようとしているのが分かる。
でも、それらの案はどれも捨て去るべきものだと、子どもの私でも理解できる。
(私の家族のために待機している人たちの中に、裏切り者が混ざっている……?)
そんな可能性がないわけではないけれど、没落寸前の北白川家を危険に陥れる可能性は恐らく低い。
大勢の証人が屋敷に妹がいることを証明するのなら、記憶を失った原因は妹にある。
どう考えたって屋敷の中にさえいれば、美怜ちゃんが紫純琥珀蝶に襲われることはないのだから。
「妹が迷惑をかけて、申し訳ございません」
互いに、誰が悪かったという犯人捜しをしたいわけではない。
誰が悪いかと問われれば、それは妹の美怜が悪かったと全員が答えを一致させるはず。
「妹が蝶を招き入れた理由が、人々を蝶の脅威に陥れるものでなければいいのですが……」
私が視線を床に向けると、悠真様は私の頭を撫でてくれるような気がする。
今も、ほんの軽い力ではあったけど、悠真様は私の頭を撫でてくれた。
それだけ広い視野で、この場を観察してくれていることに感謝の気持ちを抱きながら、私はなるべく自身の心臓を落ち着けるよう努める。
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