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「……悠真様は、心を読む力が?」
「いや、そんなわけないだろ」
頭を撫でられることを子ども染みているように捉えていたけど、これが悠真様の優しさだと気づいて深呼吸を繰り返す。
「ずっと、蝶と過ごしてきたんだ。思うこともあるだろ」
紫純琥珀蝶と言葉を交わしたい気持ちと、妹の記憶を奪った蝶を殺さなければならないのかと、二つの気持ちが葛藤していた。
揺れ動く気持ちすら悠真様は拾い上げてくれて、こんなにも素晴らしい方の元に嫁げることに感謝の気持ちがやまない。
「付いてきてもらえますか」
決意を固め、ゆっくりと襖を開けた。
「……あなたは?」
薄暗い月明かりが障子越しに差し込み、微かに揺れる影が不安を煽る。
影を作り出していた正体は私の妹。
大切な、私が守らなければいけなかった、大切な妹が虚ろな目で差し込んでくる月明かりの楽しんでいた。
「美怜ちゃん」
「だぁれ……?」
紫純琥珀蝶に記憶を喰われた妹は、私のことを理解できていないみたいだった。
そんなの嘘だよねとか、冗談だよねとか、笑って済むような話じゃないんだってことが、美怜ちゃんをまとっている空気から伝わってくる。
「結葵」
「大丈夫です」
悠真様は、私から離れることなく傍にいてくれる。
それなのに、孤独になった手は冷たさを帯びていく。
自分の体から、温度が抜けていくような感覚に恐怖さえも感じてしまう。
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