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「……誰? あなたは、だぁれ?」
初さんから連絡を受けたときから、何度も何度も言い聞かせている言葉だった。
落ち着いて。
落ち着いてほしいって両親に声をかけなければいけないのは姉である私なのに、今は何を言っても聞く耳すら持ってもらえないことが辛い。
「私は……」
紫純琥珀蝶に襲われたら、記憶を失ってしまう。
そんなのは小さいことから何度も聞かされてきたことなのに、いざ現実に起こるとどうしたらいいのか分からなくなる。
言葉を失うなんて言い方をしてしまうのは簡単で、実際何を言葉にしていいのか本気で分からなくなってしまった。
「私は……」
自分でも、自分の声が掠れているのが分かった。
第一声は……まず始めは、名前を呼びたいと思った。
大切な妹の名前を、はっきり呼びたいって思った。
だけど、私の声も心も情けない。
紫純琥珀蝶と言葉を交わすことができるはずなのに、私は大切な妹の名前を呼ぶことすらできないくらい心が動揺してしまっている。
「私は、あなたの双子の片割れです」
いつかは、家族の輪に入れてもらえるのではないか。
そんな風に、漠然と思っていた。
そんな明るい未来を想像していたはずなのに、実際に迎えた現実は少しも明るいものではなかった。
「双子……?」
笑わなきゃいけない。
記憶を失って不安なのは、私じゃない。
美怜ちゃんの方が、初めましての私を目にして混乱しているはず。
だから、美怜ちゃんが少しでも安心してくれるように、私はあなたに笑顔を見せたい。
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