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「覚えていない、よね……?」
「……うん」
笑顔で会話を続けるって、こんなにも難しいことだと痛感する。
悠真様は私といつも笑顔で話をしてくれて、いつも私に安心感を与えてくれていた。
私は悠真様が見せてくれるような綺麗に笑顔を見せることはできているのか。
笑顔を装わなきゃいけないのは理解していても、実際に嘘でも笑顔を見せられているかといったら自信がない。
「初めましての人に……こんなこと言われても何って思うかもしれないけど、でも……」
どくん。
心臓が、そんな音を鳴らしたような気がする。何でそんな気がしたのか分からない。
けど、私を鼓舞するために心臓が一生懸命動いたような……そんな感じがした。
頑張れって。
伝えなきゃいけない言葉があるって。
「無事で……良かった……」
紫純琥珀蝶が、人の命を奪うなんて事例は存在しない。
紫純琥珀蝶が狙うのは、あくまで一番大切な人の記憶だけ。でも、私は思った。
「美怜ちゃんが生きていてくれて……本当に良かった」
これは、本当の気持ちだった。
私のことを忘れてしまっても、あなたが生きてくれていて本当に良かった。
「あの……」
美怜ちゃんは、やっぱり戸惑っていた。
美怜ちゃんの記憶上では、赤の他人。
赤の他人から心配されたとことで、嬉しくもなんともない。
私が一方的に気持ちを伝えたところで、私の記憶を失っている妹にはなんの効果も影響ももたらさない。
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