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「紫純琥珀蝶とは何物なのか……未だに正体が分からない」
悠真様が自分を卑下なさるような声を発したものだから、俯きがちだった視線を上へと向けるように体へと指示する。
自分が俯いている場合ではないのだと言い聞かせていく。
「結葵様っていう大きな協力も得ることができたんだから、悠真くん一人で背負わなくても……」
「人工的に蝶が作られている可能性も含めて、俺たち狩り人は調査を進めている」
人の記憶を奪う紫純琥珀蝶が、人工的に造られているという発想を持ったことがなかった。
悠真様の発言に言葉を失いそうになるものの、人の手が加わった蝶なら記憶を奪うことも可能なのかもしれないと息を呑む。
「北白川美怜が、第三者にそそのかされた可能性もないわけではない」
この場にいる私たちを観察するように視線を配る悠真様だけど、多くの優しさを与えてくれた彼に不快感なんてものを私が抱くはずがなかった。
「……疑われるって、気分悪いね」
でも、狩り人狩り人として日々を歩まれている初さんにとっては、悠真様に疑いの眼差しを向けられること自体が戸惑いへと繋がる。
「勝手にはぐれた方が悪い」
「はーい……」
初さんは大きく息を吸い込んで、それらの空気を一斉に吐き出した。
悠真様に疑いの眼差しが向けられていることを冷静に受け止めるために、この場にいる誰もが自身のことを制御している。
「……悪いな、こういう言い方しかできなくて」
「大丈夫、悠真くんと喧嘩するほど子どもじゃないよ」
互いに、普段よりも言葉が乱れていることは自覚しているのだと思う。
それでも、その乱れを修正することができないくらいの不安定さをみなさんが抱えているということ。
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