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(私は……)
悠真様が指揮を執るように見えても、悠真様も疑いの対象に含まないといけないのかもしれない。
私は紫純琥珀蝶に関する知識が欠けすぎているのだから、たとえ婚約者という関係で結ばれた仲だとしても、血の繋がりがある家族だとしても、紫純琥珀蝶の秘密に関わっている可能性をすべて疑っていかなければいけないのかもしれない。
(しっかりしないと)
自分の頬を、ぱちんと叩いて気合いを入れ直してみた。
「……蝶の声が、聞こえたな」
「はい」
私の心臓は、不安に気づかない振りをしている自分を叱咤しているのかもしれない。
自分が不安抱いているなんて知られたら、紫純琥珀蝶の恐怖に怯えている人たちに悪影響を及ぼしてしまう。
(平気な振りを装わなければいけない)
だけど、自分の体はごまかしが効かないということなのかもしれない。
「裏切り者がいると」
蝶からの言葉を、隠し続けることもできた。
でも、私はありのままの言葉を悠真様たちへ伝えた。
「私のことを指すのか、狩り人のことを指すのかはわかりません」
閉じられた部屋で生きてきた私を、ずっと支えてきてくれた紫純琥珀蝶たち。
私が言葉を交わす相手は蝶しかいなくて、その蝶と言葉を交わし合った時間は今も大切に想っている。今も忘れることができない、大切な思い出として記憶に刻まれている。
「でも、気をつけろと」
だからこそ、私は紫純琥珀蝶の言葉を信じたい。
私を北白川の家から救い出してくれた、悠真様のことも信じたい。
どちらも信じると決めた私は、嘘を吐くことを選ぶことができなかった。
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