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片恋~愛のない世界で恋を知る~
雪が降る日は、空の色が灰色に染まってしまう。
その、灰色がほんの少し苦手だった。
だから私は、白で染まりゆく世界に視線を向ける。
「紫純琥珀蝶の研究をしているという話をしたな」
「協力してくれと、悠真様はおっしゃられていました」
「その話は本当だが、嘘でもある」
明るい白は、心を高い位置へと運んでくれるような気がしたから。
もっと、もっと、幸せになりたい。
そんな残酷で美しい願いを抱き続けてもいいんだって、白い世界が肯定してくれるような。そんな気がしたから、私は冬の白に惹かれたのかもしれない。
「俺たちは蝶を狩る側でもあり、研究する側でもあり、利用する側でもあるということだ」
初さんに見送られるかたちで、私たちは筒路森の屋敷へと戻ってきた。
別れ際に初さんの顔を確認したくて振り返ると、初さんは何も怖がることはない。
何も心配せずに、いってらっしゃいと穏やかな優しい声をかけてくれた。
「狩る側という意味も理解できます。研究という意味も理解できます。利用というのは……蝶が人の記憶を喰らうという点でしょうか」
「察しがいいな」
私は、北白川の屋敷を出るなと言われていた。
両親が私を外の脅威から守るためだと言い聞かせていたけれど、外の世界に出ても私を守ってくれる人と私は巡り合うことができた。
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