恋の煙~立ち昇る想い~

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「こほっ、こほっ」  寒さが体に堪えるような季節に入った頃から、咳が止まらなくなった。  呼吸を繰り返すことすら難しいくらいの苦しさに襲われているのに、その苦しさを和らげる方法を選ぶことができない。 「はぁ、はぁ」  一畳分の広さしかない部屋の中で、なるべく体を安静にしようと寝転がる。  その、寝転がるという行為ひとつすら、今の私には苦しい。  瞼を下げて、深く眠りの世界に向かいたい。  死の世界に誘われても構わないと覚悟があるのに、心臓だけは止まってくれない。  ただただ、苦しい。 (お医者様……)  貧民は、自由に医療の力を借りることができない。  貧しい人にも差別なく治療を行うための施設や制度が整いつつあると蝶から伺ったこともあるけれど、その施設や制度がどこまで行き届いているものなのかが分からない。 (私は、お医者様を利用してはいけない……)  恐らく、私は季節外れの風邪を引いただけ。  世の中には私よりも、医療に力を必要としている人たちがいる。  より貧しい人たちに医療が行き渡るように、今日も襲いかかる苦しみを我慢する。
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