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「お父様、お母様、見てっ」
近くの部屋から、妹の華やかな声が聞こえてくる。
今日は妹の美怜と、筒路森家との縁談がまとまる日らしい。
「こんなにも美しいお召し物、久しぶりっ」
祖父が立ち上げた事業を父が引き継いだけれど、その事業は軌道に乗らなかった。
没落した北白川家と揶揄される中、生まれてきたのが父と母の美貌を受け継いだ双子。
「あの、筒路森悠真様から贈り物をいただけるなんて」
でも、双子の片割れは不出来な娘だった。
私は紫純琥珀蝶と呼ばれる、人の記憶を喰らう蝶と言葉を交わすことができる。
気味悪がられた。
呪われた子だと言われた。
生きる資格すらないと言われた。
それなのに、私を殺してくれる人は現れない。
みんながみんな、人を殺すことは罪だと理解しているから。
「これなら、ご当主様に気に入ってもらえるかしら」
不出来な娘を殺すことで、罪を背負いたくない。
みんなの意見は一致して、今日も私は一畳分の部屋で生かされている。
誰にも存在を認めてもらえないけれど、今日も私は一畳分の部屋で呼吸をすることを許されている。
「よく似合っているよ、美怜」
「ありがとうございます、お父様」
顔だけが美しいことが功を奏したのか、没落した北白川家に縁談の話が持ち込まれた。
北白川と祝言を迎えたい人間などいるはずもないのに、顔の美しさに惹かれた多くの華族から声が上がった。
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