恋の煙~立ち昇る想い~

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恋の煙~立ち昇る想い~

 ひらひら舞う。  蝶が、桜が。 「今日は、どこに行くの……?」  闇夜に溶けていく、薄い紫色と儚い桃色。  それだけを眺めていられたら、どんなに幸せなことだろうか。 「今日も、人の記憶を食べに行くの……?」  漆黒に映える蝶と花の美しさに勝るものなんて、この世には存在しない。  そう思えるほど、この世界は美しい。 「結葵(ゆき)っ!」  紫純琥珀蝶(しじゅんこはくちょう)という名の蝶と、桜が舞う。 「誰と喋っていたの」  世界が花びらで覆われるのではないかと勘違いしそうなくらいの美しさに溺れていると、和造りの部屋を支配する母の冷たい声に背筋が凍る。 「……申し訳ございませんでした」 「謝るなって言ってるでしょ!」 「……申し訳ございません」 「あなたが謝ったってね、何も解決しないのよっ!」  私は、幼い頃から母の目を見ることができない。  いつも視線を下げて、私は母の凍てつく視線から逃げ出す。 「気持ち悪い、気持ち悪い、気持ちが悪い……」 「……申し訳ございません」  蝶が舞うのは、夜の時間。  蝶が踊るのは、暗闇の中。  蝶が力を使うのは、良い子が眠りに就いた時刻。  蝶が世界を飛び回る頃、母は私を叱りつけにやって来る。 「いい加減にして……」 「……申し訳ございません」 「蝶と話ができるなんて気味が悪い……」  蝶が、私に語りかける。  だから、私は言葉を返した。  それが、すべての始まりだった。
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