第5話 隣の席の大和君

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第5話 隣の席の大和君

 坂上高校2年A組、安田将太。  成績は2年になってからは文系上位3位以内をキープ中。東京の某有名私大が第一志望。毎日ひたすら勉強、勉強、受験勉強。勉強に集中できるよう心穏やかに日々を過ごしたい。  もちろん不良や面倒な人とはなるべく関わらず、目をつけられないよう過ごしてきた。平和な土地に暮らしている諸君にはわからないかもしれないが、この町には不良グループというものが存在する。穏やかな日々にとってこれは非常に厄介な存在なのだ。    だから俺は、不良達とは極力距離を置いて生きてきた。はずなのに……    同じクラスの大和君はこの頃学校を休みがちだった。俺は正直それが嬉しかった。彼は1年の終わり頃に突然金髪になり、しょっちゅう喧嘩して停学事件を起こす典型的な不良となった。2年になってからはもう誰ともつるまなくなり、一匹狼タイプの不良として学校の有名人になっていた。3年の不良連中と対立しているとも聞くし、そんなやつとは関わらない方がいい。いいに決まっている。    だが誠に残念なことに、俺は大和君と奇妙な繋がりがあった。前に一度筆記用具を貸してあげて以来、彼はずっと俺のところに筆記用具を取りにくるようになっていたのだ。これにはだいぶウンザリしていたから、彼が教室にいないことに俺は心底安堵していたのだ。    しかし。何が起こったのか大和君は夏休みが明けた頃からほぼ毎日、学校に来るようになった。しかも運悪く、隣の席になったタイミングで。  いいんだよヤンキーは学校に来なくて。ヤンキーはどっかでヤンキーしてろ。  大和君文具セットを貸しながら内心悪態をついていたら、大和君に、いつもありがとうな、と感謝された。  怖い。ヤンキーに感謝されるなんて。何か裏があるにきまってる。怖すぎる。    とりあえず、今まで通り、なるべく最低限の関わりで、穏やかな学校生活を送る。そう思って学校帰り塾に向かっていたら、スーパーの前で大和君を見かけてしまった。彼は楽しそうな顔で、探検家のような格好をしたお姉さんと買い物袋を取り合っていた。どういう状況?    大和君のあんな楽しそうな顔は初めて見たもので驚いたが、大和君がこちらに気付いたので、俺は瞬時に目線を外し、そっちは見てたけど君は見ていませんよ感を出しつつ、自然な動きで背を向け歩き出した。  でもすぐに背後から肩を叩かれて、振り返ったらさっきの探検家のお姉さんがいた。そして一緒にこれから鍋をしようと誘われた。は?    意味がわからないし、お姉さんの後ろにはいつの間にか大和君がいるし、これから塾だし。俺はすぐに断って走って逃げた。  あの綺麗なお姉さんはなんの探検帰りだったのか?大和君の彼女か?家族なのか?いや、探検帰りってなんだ?    気にはなるが、深入り不要。不良には関わらない。それが一番。そう思って今日も学校に向かう。爽やかな朝だ。それなのに向かいの家のカーテンはずっと閉まったまま。    教室に着く。隣の席はまだ空。このまま空であり続けてくれ。そんな希望はホームルームが始まる直前に打ち砕かれる。少し根本が黒くなってきている金髪をかき上げて、颯爽と大和氏登場。  俺は嫌いな相手も客観的に見ることができる精神的余裕があるので、言ってしまえば彼はかなりのイケメンだ。背は高いし肩幅もある。成績は圧倒的に俺の方が上だけど。  大和君は席について、足を伸ばし、ふーっと息を吐く。長い前髪がフワッと浮く。なんでそれだけの動作が絵になるんだ。本当にいちいちムカつくやつだな。周りの女子たちが遠巻きに熱い目で彼を見ているのも、俺はちゃんと知っている。    
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