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放課後。安田の読み通り、サトウは男のお供2人、女を2人連れ海岸近くの繁華街に現れた。俺と安田はそのあとをこっそりつける。奴らは少し古びたゲームセンターに入っていった。よくガラの悪い連中がたむろするところだ。俺が言うのもなんだけど。
「それじゃ、作戦通りに。安田、行けるか?」
安田は汗をかいている。
「うん。大丈夫」
「おっし。じゃあ行くぞ」
湿った安田の背中をバシンと叩いて、俺は1人、店に入った。
控えめな照明、チカチカとゲーム台が眩しく光る店の中。サトウ達以外に数人の客、みんな中高生くらいにみえる。見るからにやる気のなさそうな店員が1人。
ターゲットのサトウ達は店の奥のパンチングマシンで遊んで盛り上がっていた。そこに近づいて、声をかける。
「サトウタイキさん」
奴らがいっせいに振り返る。
「誰?」
「タイキ知り合い?」
「いーや?誰だっけ、試合したことあったっけ?」
「別に誰でもいいでしょ。ちょっとお手合わせ願えますか」
「お手合わせ?タイキと?」
「君知ってる?コイツね、こう見えてボクシング超〜強いの!」
お取り巻きがケラケラ笑い始める。本人も困ったように笑う。
「あれー、この子、坂上高校の大和君じゃない?」
「え、なに?有名人?」
「去年は坂上の奴らと一緒にいたよねぇ、最近みないと思ってたぁ。噂通りイケメンだぁ」
「へぇ、お隣さんか。タイキに何の用?」
「だから手合わせ願いたいって言ってるでしょ」
「大和君?だっけ。俺ね、素人相手に戦うなってコーチに言われててさ。悪いけどそのお願いは聞けないんだよ」
「へぇ、コーチの言うことはちゃんと聞くんだ」
「……何が言いたいの?」
「大丈夫っすよ。今日の俺、すげー強いから」
ポケットから薬瓶を取り出し、奴らに見せつけるように、それを一気に飲み干す。
「え、なになに?翼でも授けられちゃうの?」
「やだー、大和君危ないもの飲んじゃダメだよ」
「お前イケメンだからってなびくなよ」
レンさんオリジナルドーピング薬。それは苦いような甘いような、美味しくもないし不味くもない、今までに味わったことのない味で、体の隅々までじんわりと行き渡り、染み込んだ。
そしてあちこちで上がりはじめた革命の狼煙が爆発的に、誰にも止められない力を持つように、俺の体は熱を帯びはじめ、抑えきれなくなったその発散を目の前の相手に求めはじめた。
「あら、大和君、息上がってるよ?シューシューいってる。ダースベイダーかな?」
「……はぁ。やべー、すげー効く」
「怖い怖い。大丈夫?でもどんな薬なのか気になるな、匂い嗅いでみていい?」
薬瓶をサトウに差し出す。サトウがそれを取ろうとする。すぐに手を引っ込める。
「なんだよ、意地悪だな」
もう一度薬瓶をを差し出す。サトウが取ろうとする。すぐにまた手を引っ込める。
「おい。バカにするのもいい加減にしろよ」
サトウは引っ込めた俺の手を無理矢理引っ張ろうとする。その手を軽く振り払うと奴はプツンときたのか、俺の腹に素早く右ストレートを決めてきた。
取り巻きから、あー。の声。
「おっとごめんね、手合わせ手合わせ。痛くなかった?」
「やっとしてくれる気になったんすね。うん、まーじで全然痛くない。もっと本気でお願いしますよ」
「まったく、生意気な後輩の指導も先輩の大事な役目だよな」
「はい。どーぞ」
そういうとサトウはすぐに構えをとり、獲物を狙う目になった。
俺は薬瓶をポケットにしまい、ハンターを迎え入れる。
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