第9話 大和の恩返し③

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第9話 大和の恩返し③

 大和君が中に入ったのを見届けてから、静かに店に入る。店員が近くにいないことを確認し、自動ドアの上にあるスイッチを押して電源を切り、手で戸を閉め鍵をかける。これで誰も入ってこれない。俺のミッション完了。早っ。  奥から大きな笑い声が聞こえた。サトウの声も聞こえる。店の中にいた数名の客がなんだなんだと奥を覗き込む。俺も台の陰に隠れながら奥を見る。  大和君とサトウが対峙している。サトウはお馴染みのボクシングの構えをとっていて、大和君はヒグマのように立っている。ん?ヒグマ??  サトウが素早く右ストレート。大和君はベシッとそれを片手で払い叩き落とす。サトウは叩かれた勢いで体勢をを崩したが、すぐに構えてすかさずアッパー。大和君は顎にまともにそれを食らう。お取り巻きの歓声、大和君は少しの間天井を仰ぐ。それからゆっくり頭を戻した。  が、その顔を見た誰もがギョッとしたはずだ。大和君の口元は楽しそうに笑っていて、両目は真っ赤に充血していた。  悪魔降臨……! 「ホントに全然きかねーなぁ。やっぱりすげーや」  そう言って大和君は、ブン!と片手でサトウをはたいた。突然の横からの衝撃にサトウは倒れそうになるが、すぐに立ち直り反撃の肘フック。大和君はそれもブン!と叩いてサトウをなぎ倒す。  さらにサトウのフック、大和君のブン!サトウのストレート、大和君のブン!からの大和君の右ストレート!サトウの防御。大和君の頭掴み!サトウの「ぐあぁぁっ」!ガラ空きになったサトウの腹に、大和君の膝蹴り!グゴッという嫌な音!さらに大和君がサトウをブンッ!とぶん投げる!ぬいぐるみのように投げ捨てられるサトウ、取り巻きの女の悲鳴!  あぁ、俺はこんな光景を、何度も何度も頭の中で描いてきた。サトウを尾行し、挑発し、攻撃を仕掛けてきたところを返り討ちにし、思う存分殴り蹴り、制裁を加える、そんな自分の姿を。何度も何度も想像したのだ。  俺の頭の中にしか存在しなかったはずのその光景が、今、目の前にある。脳みそが興奮しきって、高まりが止まらない。  大和君はうつ伏せに倒れたサトウの髪を引っ張って、軽そうな頭を持ち上げる。鼻血がポト、ポト、と床に落ちる。口の端も切れているようだ。血が滲んでいる。 「サトウさん、俺がさっき飲んだ薬、何かわかる?」  サトウは何も答えず、憎々しげな目をして体勢を立て直そうとする。が、足が痛むのだろうか、うまくいかないようだ。 「あれね、『恨み』って名前の薬なんだって。神様からもらった」 「何言ってんだお前」 「サトウさん、なにか人の恨みを買うようなことしたんじゃないですか?じゃないと俺、こんな強くならないはずなんですよ。恨みが強ければ強いほど俺の力が強くなる薬らしいっすよ」 「知るかよ…頭おかしいんじゃねぇの」 「ちゃんと反省してください、じゃないと次はどんな『恨み』が来るか、わからないですよ」 「うるせぇよ!」  大和君は掴んでいたサトウの頭を、思いっきり床に叩きつけた。  グシャァッと、イヤな音がした。思わず顔を背けてしまう。  みっともなく喚くサトウ。    あぁ、負け犬だ。    
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