第10話 大和の恩返し④

1/2
前へ
/25ページ
次へ

第10話 大和の恩返し④

 ピンポーン。 『はい……え?どちら様……将太くん?』  扉がガチャっと開く。おばさんはびっくりした顔をしながらもすぐに入れてくれた。ボロボロになった大和君と俺は、玄関に腰掛けて一息つく。  将太くんどうしたの、こんなに怪我して!何か冷やすもの、絆創膏もいるわね、なんて言って、おばさんは奥に取りに行った。 「今のがサトコちゃん?」 「ちがうよ。聡子ちゃんのお母さん」 「はは。ちげーか」  ボロボロの顔で笑う大和君。イケメンってボロボロでもイケメンなんだな……  おばさんは保冷剤やガーゼをたくさん持ってすぐに戻ってきた。そして大和君のことをまじまじと見て、こちらは……?と聞くから、同級生の大和君です、と答えた。大和君は、どーも。と軽く会釈した。どうも、と言って、おばさんは大和君にも保冷剤を渡す。 「おばさん、聡子ちゃんに伝えてほしいんだけど」 「聡子に?なあに?」 「もうアイツは二度と聡子ちゃんに近づくことはないから。安心して外に出ていいよ、って」 「アイツって……将太くん、もしかして」 「すごかったですよ、安田。サトウの腕に必死にしがみついて、殴られても振り払われてもずっとしがみついてて。あのサトウ相手に闘ってました。謝れ!聡子ちゃんに謝れ!って叫びながら、必死にやってました」 「将太くん……聡子のために?」 「聡子ちゃん、なんにも悪くないのに。許せなくて、アイツ、あんなに優しい聡子ちゃんのことを傷つけて……」  おばさんは目に涙を溜めて、俺の頬にガーゼで巻いた保冷剤を優しく当てた。   「将太くん、こんなに沢山怪我までして。聡子のためにたたかってくれたのね。ありがとう」 「俺も頑張りましたよ」 「ありがとう、大和君もありがとう」  おばさんは笑って、大和君の口元にも保冷剤を当てた。  階段からミシッと音がした。  見上げるとパジャマ姿の聡子ちゃんが2階から降りてきていた。驚いたような、悲しそうな顔をしている。 「聡子ちゃん!」 「将ちゃん、ひどい怪我……」 「ごめんね聡子ちゃん、遅くなって」 「え?」 「本当はもっと早くアイツを懲らしめたかったんだけど、遅くなってごめんね。でももう大丈夫だよ、聡子ちゃんに代わって俺がアイツを懲らしめといた!アイツ、歯も折れて、顔もボロボロで、ひっでえもんだったよ。もうすっかり気落ちして、二度と女の子を傷つけるようなことはしません、今まで関わった女の子にも絶対近づきません、って。言わせたから!ちゃんと証拠の動画だって撮ったからね!だから聡子ちゃんはもう何も怖がなくていいよ。外に出て大丈夫。アイツはもう二度と聡子ちゃんのそばに来ないから」 「どうして、将ちゃん、喧嘩嫌いって言ってたじゃない、どうしてこんな怪我までして、そんな無茶するの……」 「だって……聡子ちゃんの笑った顔が見たくて……」  小声でゴニョゴニョという俺の前に、聡子ちゃんはぺたんと座った。そして湿ったガーゼで俺の顔をそっと拭きはじめた。ガーゼに赤黒いシミが増えていく。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加