第3話 愛よ甦れ

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第3話 愛よ甦れ

 通学途中にレンさんの庭に寄る。つまらなかった日々に楽しみができた。  一週間毎日学校に行ったものだから、担任から驚きの電話を受けたお袋は大喜びだった。    朝。高校に行く前にジャングルガーデンな庭をのぞく。運がよければ家主に会える。朝の家主はTシャツにショートパンツ。そんな恰好でトロンとした顔して庭に出るものだから心配になる。そう言うと家主は寝ぼけ顔で、そこら辺の植物のツルをシュルシュルと伸ばし、俺の手首に巻きつけた。敵は逃さないから大丈夫だよ、なんて眠そうな声で言う。  渋々庭をあとにし、学校へ。そういえば樹齢300年の木は駐車場の奥にひっそりと、たしかにそこにあった。    教室で授業を聞く。屋上で飯を食う。寝る。教室で授業を聞きながら夢をみる。    夢といえば。  レンさんの夢とは、「最強の毒薬を作ること」だったらしい。ちょっとひきながら誰に使うのか聞いてみると、レンさんは飾り棚にある写真を指さして、そこに写ってる人。と言った。    それはあえての加工なのか、かなりレトロな雰囲気のセピア色の写真で、今と変わらないサファリな服を着た笑顔のレンさんと、クールに微笑む背の高い美形な男が写っていた。男はレンさんと同い年か、少し上に見える。腕をレンさんの腰に回していた。背景はヨーロッパの街並み?日本らしくない風景。    この男誰?元カレ?と聞くと、レンさんはパソコンから目を離すことなくごく普通に、殺人鬼。と言った。そしてすぐに、冗談だよ、と笑った。    安田に起こされる。学校から帰る。レンさんに頼まれたとおり、"変わった植物"を探しながら歩く。よくわからなくて、途中で適当に雑草を引っこ抜く。    またジャングルガーデンな庭をのぞく。家主が庭にいなければ玄関のチャイムを押す。運がよければ家主が出てくる。昼間の家主はサファリファッション。これぞサファリ女。  引っこ抜いた雑草を見せる。家主がそれをトレイに乗せ、あがれあがれと部屋に入れてくれる。図鑑を出してきて雑草の名前やら薬効やらを教えてくれる。雑草にもひとつひとつ、ちゃんと名前があるのだと知る。    それから冷たい飲み物やお菓子をもらいソファでくつろぐ。宿題をやれと家主に言われる。おとなしくやる。わからないところは、パソコンをカタカタしている家主に聞く。大体わからないのでほぼ教えてもらう。家主は研究者のくせに理系教科は苦手らしい。    日が暮れ始める頃にその家を出て、歩いて10分先の自宅に戻る。夕飯の支度をする。母親が帰ってくる。二人で飯を食う。  風呂入って、ゲームして、寝る。    家主が家に居ないときは、雑木林や公園で見つけられることもある。何かを咥えたネコを追いかけ塀の上を走っていたり、木の上に登って鳥につつかれていたり、謎の花びらをそのまま食ってたりする。    運が悪いときは、朝も夕方も会えない。  そういう時は引っこ抜いた雑草を道端に捨てて、大人しく家に向かう。  そして先輩たちに詰められて、ボコられて帰る。  寝る。  今日は運がいい日。学校からの帰り道、家主が庭にいた。  本日の手土産は、どこかの庭からはみ出て生えていたのを引っこ抜いてきた、この丸っこくてデカい葉っぱ。「ツワブキ」というらしい。特段珍しい植物ではなかったが、抗菌作用のある葉は火であぶって揉んで柔らかくして、湿布のように使うこともできるそうだ。普通は。    早速、普通じゃない方法で使う。昨日先輩達にボコられた俺の腹にツワブキの葉を当てて、どうかこの腫れがひきますように。レンさんはそう呟いて、また特殊能力を発揮。今回もよく効いている。 「大和くん、誰にやられてるのコレ。私、とっちめてこようか」 「ダメダメ、レンさんは危ないから関わらないで」 「そんなこと言ったってさぁ、こんな、一週間も経たずまたこんなケガさせられてさぁ。相手はギャングか何かなの」 「そんなたいそうなもんじゃないですよ。高校の先輩です。俺のことが気に食わなくて腹いせにやってくるだけ」 「なにそれ。今度そいつら見かけたら教えてよ。ヤるから」 「レンさんが言うと洒落にならないです」  眉をしかめるレンさん。ほんとムカつく、なにでしめてやろうか、なんてブツブツ物騒なことを言っている。    
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