第3話 愛よ甦れ

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 ツワブキは汁を胃腸薬にすることもできるし、灰汁をとれば茎みたいな部分を食うこともできるらしい。冬には黄色い花を咲かせる。なかなか万能な植物だったようで、レンさんに生えていた場所を詳しく聞かれた。  俺の傷を治したレンさんは、またパソコンに向かう。    明日は土曜日、高校は休み。通学途中に寄ったという理由は使えないから、レンさんに会いに来る、なにか自然な言い訳はないものか探す。適当に葉っぱを引っこ抜いてきたら会ってくれるだろうか。土日まで家に来たら流石にウザがられるだろうか。そんなことを考えてたら。   「大和くんのお父さんお母さんって、土日はお仕事お休み?」 「父親はいないです。うちシングルマザー。母親は平日仕事で、土日は休みです」 「そうなのか。じゃあ明日はお母さん、お家にいらっしゃる?」 「たぶん」 「そしたら明日、ご挨拶にいくね。10時ごろとかご都合どう?」 「え?挨拶?なんで?」 「いやそりゃあさ、大事な息子が見知らぬ女の家に行ってたらさ、お母さん、心配になるでしょ。ご近所さんの目も気になるし。イケメンヤンキー男子高校生を謎の一人暮らしの女が家に連れ込んでる……なんて変に思われても嫌だし。なのでその前にご挨拶しといたほうがいいかなと思って。お母さん好きな食べ物とかある?」 「そんな大丈夫なのに。でもレンさんが心配なら、まぁ。お袋は駅前のマドレーヌが最近好きみたいですけど」 「あそこのお店ね!私も気になってたの。よし、じゃあ明日お店にいって、それから大和くんのお家にいくよ。お母さんにご挨拶に行くこと、伝えといてくれる?」 「はーい。でもお袋、驚くだろうな……」  彼女も紹介したことないのに。  ということで、翌日午前10時。  お袋には昨日の夕食の時に簡単に話しておいたが、普段見かけない少しかしこまった服を着て、分かりやすくソワソワしている。Tシャツ・ジーパン姿の息子とのギャップがすごい。レンさんはいつものサファリファッションで来るのだろうか。    お袋が玄関前でソワソワと歩き回っていると、家のチャイムが鳴った。   「はーい!」  お袋はすぐに戸を開ける。   「こんにちは、お休みのところ、突然すみません」  お袋の背中で見えないが、聞きなれた女の声がした。 「はじめまして。私、神野レンと申します。先々週、そこの青い屋根の家に越してきた者です。大和さんには私の植物採集の仕事を手伝っていただいています」 「ええ、昨日息子から聞きました。あの子、最近珍しく学校に行っていると思ったら!こんなところで立ち話もなんですから、どうぞ中へ」 「ありがとうございます。お邪魔します」  そういって玄関に入ってきた女は、膝丈のブルーの襟付きワンピースに、髪をハーフアップにして、マドレーヌ屋の紙袋を両手でキュッと持って、ザ・令嬢感を出していた。おいおいこりゃ誰だ。普段のあのワイルドさはどこにいった。 「レンさん、今日全然サファリじゃないじゃん」 「サファリ?」    お袋が首をかしげる。レンさんにジロっと睨まれる。 「レンさん、いつも探検家みたいな恰好して植物ハンティングしてるんだよ」 「あらぁ。そうなの?想像つかないわ」  レンさんと話し始めたお袋は上機嫌だった。レンさんも楽しそう。歳は倍ほど離れている2人だが、「俺」という共通の話題で大いに盛り上がっていた。 「こう見えてこの子、優しいんですよ。ほら、うち母子家庭でね、私は働いてるんだけど。私が帰ってくる前に晩御飯を作って待ってくれてるんです。洗濯もしてくれてね」 「えらい。大和くん偉すぎます。今どきそんな男子高校生いないですよ」 「そうでしょ?学校はサボるし、喧嘩はしてくるし、見た目もほら、こんな金髪にしちゃってねぇ。ヤンチャの盛りですけど、根はいい子なの」 「わかります。この不良っぽい見た目では隠しきれない優しさ、ありますよね」 「わかる?それにね、この子、モテるんですよ。中学の時なんかバレンタインにチョコレートを紙袋いっぱいに詰めて持って帰ってきてね。私も一緒に食べちゃったの」 「さすが!大和くん、細かいところによく気づくし、優しいから女の子達も好きになっちゃうんでしょうね」 「レンさんから見て大和はどう?まだまだ子供だけど。いい男になりそう?」 「おいやめろよ」 「今でもいい男です、大和くんは」 「あら!ならその……2人は歳が離れてるし、今は大和がレンさんのお仕事のお手伝いをしてるということだけど、これからその、恋愛関係に発展したりする可能性はあるのかしら」 「お袋いい加減やめろって」 「そうですね……」  レンさんは少し悩んだ顔をして、それから何かを決めたように、キリッとした顔をした。  一体何を言い出そうとしているんだ。ドキドキして言葉を待つと。
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