第3話 愛よ甦れ

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「安心してください。息子さんを襲ったりはしません!」  至極真面目な顔をして、レンさんはお袋の目をまっすぐ見つめた。  お袋は空気砲でも喰らったかのような顔をしている。 「大事な大和くんの貞操を奪うようなことは決してしません!その点は!ほんとに!安心してください!」    お袋はハッと我に返り、それから勢いよく笑い出した。   「レンさん!あなた!それは男のセリフじゃない?」 「いえ、私の方が年上ですから!年長者がしっかり責任を持たなければ」 「あはは。しっかりしてるんだか、ブっ飛んでるんだか」  お袋は笑いすぎて目に涙をためている。  俺は自分の手を眺めてやり過ごすことに徹底した。  爪、伸びてるな。切らなくちゃ。  レンさんが帰った後もまだお袋は笑っていて、マドレーヌを頬張りながら、もっとレンさんとお話ししたかったわ、お昼も一緒に食べれたらよかったのに、なんて言っていた。 「大和、あんたすごい人を見つけたね。手当してもらったのが出会いだなんて、怪我した甲斐があったわねぇ」    もちろん、お袋には超能力者だということは話していない。 「レンさんとなら、母さん安心だわ〜」 「はぁ。まだ会って一週間なんだけど」 「でも大和が毎日学校に行っちゃうくらい、大和にとって存在感のある人なんでしょ」 「まぁ。勉強教えてくれるし。怪我治してくれるし」 「美人だし」 「面白いし」 「ま。大和が楽しいならなんでもいいわ。でもそうね、いくら相手が社会人で襲ってこないと宣言しているとはいえ、男のあんたがしっかりするのよ」 「うるせぇよ」  それにしても、なんだよ急に……。  まだそんな気配はちっともないのに。というか男女のそれみたいな空気、あの人から感じたこと一度も無いのだが。いつも隙だらけだし、俺のことはせいぜい、近所のよく遊びにくるヤンキー高校生くらいに認識されてるのかと思ってたけど。    もしかして、それ以上に思ってくれている……?  少しは期待していいのだろうか。  と思って翌日。買い物に行く途中にレンさんの庭をのぞいたら、あのツワブキがジャングルガーデンの仲間入りをしていた。丸っこいツヤツヤした葉の間から、黄色い菊のような花がぐーんと伸びてきている。あれ、ツワブキ、花が咲くのはたしか冬じゃなかったか?  スマホで検索してみると、まだツワブキの花が咲く時期じゃない。レンさんがまたチートパワーを使ったのだろう。  検索画面に出てきたツワブキの花言葉に目がいく。  「愛よ甦れ」    愛よ甦れ、なんて花言葉があるのか。花言葉らしくないというか、どことなく詩的で、映画や小説の名前のようだ。甦れ、というのは、愛は今死んでいる、ということか。    レンさんにも失われた愛があったのだろうか。あの人、今までどんな恋愛をしてきたんだろう。そういえばあのレトロな写真の男、結局誰だったんだ?レンさん、あんなにかわいいのに彼氏がいないのはなぜだろう?    謎のサファリ女。まだまだ知らないことばかりだ。    ……でもやっぱり独り身なのは、ワイルドすぎる奇行が原因なんじゃないだろうか。道端で謎の花を食べてるのを見たときは、さすがにちょっと、アレだった。
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