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「安心してください。息子さんを襲ったりはしません!」
至極真面目な顔をして、レンさんはお袋の目をまっすぐ見つめた。
お袋は空気砲でも喰らったかのような顔をしている。
「大事な大和くんの貞操を奪うようなことは決してしません!その点は!ほんとに!安心してください!」
お袋はハッと我に返り、それから勢いよく笑い出した。
「レンさん!あなた!それは男のセリフじゃない?」
「いえ、私の方が年上ですから!年長者がしっかり責任を持たなければ」
「あはは。しっかりしてるんだか、ブっ飛んでるんだか」
お袋は笑いすぎて目に涙をためている。
俺は自分の手を眺めてやり過ごすことに徹底した。
爪、伸びてるな。切らなくちゃ。
レンさんが帰った後もまだお袋は笑っていて、マドレーヌを頬張りながら、もっとレンさんとお話ししたかったわ、お昼も一緒に食べれたらよかったのに、なんて言っていた。
「大和、あんたすごい人を見つけたね。手当してもらったのが出会いだなんて、怪我した甲斐があったわねぇ」
もちろん、お袋には超能力者だということは話していない。
「レンさんとなら、母さん安心だわ〜」
「はぁ。まだ会って一週間なんだけど」
「でも大和が毎日学校に行っちゃうくらい、大和にとって存在感のある人なんでしょ」
「まぁ。勉強教えてくれるし。怪我治してくれるし」
「美人だし」
「面白いし」
「ま。大和が楽しいならなんでもいいわ。でもそうね、いくら相手が社会人で襲ってこないと宣言しているとはいえ、男のあんたがしっかりするのよ」
「うるせぇよ」
それにしても、なんだよ急に……。
まだそんな気配はちっともないのに。というか男女のそれみたいな空気、あの人から感じたこと一度も無いのだが。いつも隙だらけだし、俺のことはせいぜい、近所のよく遊びにくるヤンキー高校生くらいに認識されてるのかと思ってたけど。
もしかして、それ以上に思ってくれている……?
少しは期待していいのだろうか。
と思って翌日。買い物に行く途中にレンさんの庭をのぞいたら、あのツワブキがジャングルガーデンの仲間入りをしていた。丸っこいツヤツヤした葉の間から、黄色い菊のような花がぐーんと伸びてきている。あれ、ツワブキ、花が咲くのはたしか冬じゃなかったか?
スマホで検索してみると、まだツワブキの花が咲く時期じゃない。レンさんがまたチートパワーを使ったのだろう。
検索画面に出てきたツワブキの花言葉に目がいく。
「愛よ甦れ」
愛よ甦れ、なんて花言葉があるのか。花言葉らしくないというか、どことなく詩的で、映画や小説の名前のようだ。甦れ、というのは、愛は今死んでいる、ということか。
レンさんにも失われた愛があったのだろうか。あの人、今までどんな恋愛をしてきたんだろう。そういえばあのレトロな写真の男、結局誰だったんだ?レンさん、あんなにかわいいのに彼氏がいないのはなぜだろう?
謎のサファリ女。まだまだ知らないことばかりだ。
……でもやっぱり独り身なのは、ワイルドすぎる奇行が原因なんじゃないだろうか。道端で謎の花を食べてるのを見たときは、さすがにちょっと、アレだった。
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