第33話 世界樹の下で

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 後日、花火大会の日。  大和君が女といた。私たちに遭遇すると大和君は浴衣姿の女を抱えて走っていってしまった。顔はよく見えなかったが、あの女だと直感した。  その翌朝。遅刻してきた時の大和君の艶やかな顔といったら!絶対になにか……なにかいかがわしい事があったのだと確信した。  だが昼休みが終わった後の大和君は、打って変わって不穏なオーラをバッキバキに発していた。絶対になにか……なにかあの女とトラブルがあったのだと確信した。  気になる。何があったのか気になる。直接本人に聞くのが早いと思い、数日後、私は女を呼び出した。だが大和君のことを聞き出そうとしても、女は、グングニルがグングニルだからとかなんとか、意味不明なことを並び立てて話にならない。だからグングニルってなに?  (注 北欧神話の伝説の槍)    だがちょうどタイミングよく媚薬が出来上がっていたらしく、小袋に入った粉末状のそれを渡された。500ミリペットボトル飲料に混ぜて飲ませれば、特段好きでもない相手に対しても発情させる効果があるという。 「じゃ、これで誘惑して。がんばニル」  正直そこまで期待はしていなかった。でもタイミングを見て使ってみようと、私はそれを常時持ち歩いた。  そしてその時はきた。体育倉庫へ向かう途中、ひとりで歩く大和君を見つけたのだ。私はスポドリに薬を混ぜて彼を呼び止め、薄暗い倉庫へと誘った。  でも彼はそれに口をつけなかった。その代わり真島が飲みやがった。真島は見た目はいいが、中身が残念だ。そんな男に用はない。私は大和君を連れ出して逃げた。    そして、女に電話をし、倉庫に呼び出した。 「レンさん、媚薬チャンス到来なんですけど、運悪く先生に探し物頼まれちゃって。代わってくれますか!」  無駄に人のいい女はすぐ倉庫に来て、そこにいた真島を手伝い始めた。薬を飲んだ真島にまだ変化は見られなかったが、私は倉庫の戸を閉め、鍵をかけた。  それから何事もなかったかのように大和君の試合を観戦。  それは因縁の対決でもあった。  2年A組の相手は3年B組、大和君と敵対する先輩達がいるクラスだった。  大乱戦に備え、男性教員が警備に総動員された。いつもはキャーキャーうるさいギャラリーも、その重々しい空気に圧倒され、息を飲んで見守った。  そして……悪魔のように妖しく笑う大和君は、敵を蹴散らし仲間(安田)を蹴散らし、見事勝利を掴んだのだった。  大歓声の中、大和君は観客席をぐるぐると見回す。  きっとあの女を探しているのだ。そう思っていると大和君は、全身UVカット&サングラス女の元に近寄り、何かを話した。誰だあの女?    それから大和君はまた辺りを見回して、私を見つけた。  心臓がはねる。  大和君が私の元へ走ってくる。
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