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柔らかい胸に顔を埋めると、レンさんは俺の頭をポカポカと叩き始めた。
「大和くん、やっぱり今はだめ。ごめんなさい〜」
レンさんの声が今にも泣きそうなのに気づき、顔をあげる。やっぱりその目には涙が溜まっていた。
「……レンさん、泣かないで」
「ごめんなさい〜」
「もう、しょうがないな。大丈夫だから、ほら」
体を起こして離れると、レンさんもしょんぼりと起き上がる。
「ありがとう……」
「ほんとだよ。さっきの青木の話があるとはいえ、ここまで来て我慢してくれる男、俺くらいだよ」
「ごめんなさい……」
「まー、こんなところで初めてってのもなんだし。……落ち着きそう?」
「うん。もう少ししたら……」
「よかった」
「大和くんも、早く行ってください……」
「こんなんなっちゃったらいけないでしょ」
レンさんは目を泳がせる。
「……大丈夫だよ、なんとか行けるから。レンさん、ひとりで聡子ちゃんのとこ戻れる?」
「うん」
「じゃ、落ち着いてから出て」
「はい……」
こんな人をひとり置いていくのは不安極まりなかったが、そばにいたらそれはそれで危うい気もするし、俺は泣く泣く外に出た。
振り返ったら、トロンとした顔をしてマットに座り、手をヒラヒラとふる可愛い人がいて、やっぱりまだそこにいたくなった。
「大和くん」
レンさんが弱々しく声を張る。
「なあに」
「バスケしてる大和くん、かっこよかった」
「俺が体力だけの男じゃないこと、ちゃんとわかってくれました?」
「?」
「あー……いや、いいや。……そうだひとつだけ、ちょっと聞いてもいい?」
「なに?」
「駿河聖とは……なかったの?こーゆー事」
レンさんはポカンとして、それからカラッと笑った。
「駿河には婚約者がいたからね。なかったよ。人には恋愛したらって言っておいて、私はちっとも経験せずに生きてきちゃった」
ーー
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