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「いらっしゃいませー」
門口が連れてきた店は、某百貨ビルの二階にある、私が入ったことのない上品な店だった。
店員もモデルみたいにキレイ。
「うわー、AIME×に、Dorry Dol×もあるー♪
可愛い♪」
京子が言うブランド名は全くわからない。
ただ、京子が可愛いと言ったワンピースタイプのドレスは、28歳の私たちには若すぎる気がした。
それに、予算よりかなりオーバーする。
こんな高い店に連れてきて、足りなかったら出してくれるのかね? このベンチャー企業の社長様は。
チラリと、門口を見ると私たちからは視線を外してスマホで電話をしている。
連れてくるだけ連れてきて興味ないなら、もう帰ればいいのに。
「お呼ばれ結婚式のドレスをお探しですか?」
そのハセジュン並みの美人店員が近寄ってきた。
「は、はぁ……」
今、私の胸の猫を見たよね?
顔がバカにしたように笑ってる。
元々、私はお洒落にはあんまり関心がない。
というか着飾るのも気取るのも苦手。
女子力は極めて低い。
……そんな私を元カレ克也は、″好き″だと言ってくれた。
″飾らない真樹が一番いい″ って。
本当に貴重な存在だったよね。
「お客様には、これなんかお似合いだと思いますけどね」
ちょっと感傷的になっていた私に店員が勧めたのは、
「え」
これだけシャレオツな服がある中での、見事なオバサンスーツだった。
フォーマルはフォーマルでも、これは喪服でしょう?
「これは結婚式だけじゃなくて、入学式や葬儀の時にも着られる優れものです」
そう言われて二十歳の時に買ったフォーマルの四点セット、ほとんど袖通すことなく持ってるっつーの。
「あ、いや、こんなんじゃなくて」
その何の飾り気もないスーツを、(しかも五万円もする) なんちゃってハセジュンがしきりに勧めてくる。
「絶対にお買い得ですって」
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