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「克己くん、ジュースなくなってるよ、おかわりは?」
「頼もうかな、こういうところで飲むコーラは上手いんだよな」
楽しそうな二人。
きっと、あれが噂のガソリンスタンドの女の子だ。
可愛いし、とても初々しい感じ。
……出来たら見たくなかった。
克己が新しい恋をしているところなんて。
克己と別れて一ヶ月半。
まだ、彼に未練があるのがハッキリと分かった。
「なんだよ、外にお化けでもいたか?」
どんなにイケメンの連れがいたとしても、この人は恋人じゃない。
ただの取引先の社長だ。
「はい……いました。元彼の生き霊が」
「こわ、そんなこと言うなよ」
「しょうがないじゃないですか。見えちゃったんだから」
……やっぱり元恋人との思い出の場所になんか来るものじゃないね。
「もっとガツガツ食う女かと思ったら、食細いな。見かけ倒しか」
「どんな見た目ですか。……一応緊張してるんです、良く知らない男性との食事だから」
うそだ。
緊張なんてしてない。
食欲を削ぐ要因が近くにあるってだけ。
「嘘つけ、そんなたまじゃないだろ」
当たり。
もう、誰かを恋愛対象としてドキドキしたりとかないかもしれない。
可能性がないことに挑んだりする勇気も湧いてこない。
「お前の、海の底からすくってきたようなパスタ、うまいの?」
意外にも普通のミートソースを食べる門口がジェノベーゼのことをそう表現してきた。
「これ、青海苔じゃないですよ」
「じゃなに、ほうれん草?」
このひと、お金持ちのくせにあんまり食に詳しくないのだろうか。
「バジルです、ハーブの一種です」
「ハーブ? うちの母親が育ててるやつか」
「ハーブと言ってもいろんな種類、効能があるんですよ。バジルは劣化が激しいのであんまり出回ってなくて貴重なんですよ」
「……」
聞いてるのか聞いてないのか、門口はスマホをいじり出した。
「あー、ほんとだ。バジルの効能。
……″ 便秘の解消に効果を発揮し、お通じを良くします″ だって。お前、常に便秘って顔してるもんな」
はぁぁ?!
わざわざ検索してたの?
「何それ、失礼過ぎます! ジェノベーゼ食べてる人が皆、便秘なわけないでしょ?」
……そもそも効能期待して食べないって。
「″体を温める効能もあります″ だって。
それ、ちょっと食わして」
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