はなみず

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はなみず

「何で泣くと、はなみずが出るの?」  天使のお兄さんに片手抱っこされ、不思議ととても穏やかな気持ちになった少女は、すぐそばにあるきれいな顔を見て尋ねました。  天使のお兄さんは手を少女のほほにそっと当て、親指の指先で少女のまぶたの最も鼻に近いあたりをトントンして答えました。 「お嬢ちゃんにも、今トントンしたあたりに、涙の吸い取り口が両目合わせて四つあってね。涙は鼻のほうに吸い取られて鼻水になって、その量が多いと鼻からあふれるんだよ」 「え~っ、ヘンなの。ホント?」 「お兄さんは、何でも知ってるからね」  天使のお兄さんが微笑むと、少女はまた尋ねました。 「何でそんなしくみなの?」 「お嬢ちゃんも、鼻水をだらだら流すと、恥ずかしいと感じるよね」 「うん」 「あんまり泣いちゃだめだ、って気づくように、神様がそう作ったんだよ」  少女は、「神さまは、神さまに似せて人間を作った」と聞いたことがあったのを思い出しました。 「神さまも泣くと、はなみずがだらだらなるの?」 「どうかな」 「さっき何でも知ってるって言ったよ?」  天使のお兄さんは苦笑いしました。 「ごめんね。これから神様に会ったら、聞いてみようか」  天使のお兄さんは、背中の翼をバサリと動かしてみせました。 「天使のお兄さんは泣くの?」 「質問がいっぱいだね」  天使のお兄さんは、楽しそうに答えました。 「お兄さんは鳥の仲間だから、ピイピイ鳴くよ」 「ウソだぁ」  笑う少女に、天使のお兄さんは、もう一度、背中の翼をバサリと動かしてみせました。 「でも、飛べるのは本当さ」  天使のお兄さんは、少女を両手で抱きかかえました。  すると少女は、魔法をかけられたかのように、いっそう穏やかな気持ちになりました。 「苦しみのボリュームは絞られた」 天使のお兄さんはそうつぶやいた後、やさしげな表情で少女に告げました。 「あいさつしようね」  ……少女は振り返ると小さな手を振って、それから天使のお兄さんに向き直りました。  そして天使に伴われた少女の魂は、少女の両親と祖父母が涙と鼻水を流してはぬぐう病室を離れ、病院の屋上を超え、やがて青空と白い雲の中に消えました。 (了)
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