魔導書

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 俺は図書館で友達の佐藤に話しかけた。 「おい、佐藤。この本、読んでみろよ」 「ん? これは何の本なの?」 「魔法が使えるようになる本らしいぞ」  佐藤が怪訝な表情を浮かべた。 「馬鹿馬鹿しい。そんなことできるわけないじゃないか」 「試しに読んでみたらいいのに」 「片岡が自分で読んだらいいよ」  俺は『初めての方でも簡単に魔法が使えるようになる魔導書』を開いて読んでみた。  滅多に本を読まない俺がその本を読み出すと止まらなくなって、三時間で最後まで読み終えた。  すると俺は図書館の壁を突き破り空高く飛び上がることができるようになった。眼下に学校を見据えて右手を意識とは関係なく勝手に翳すようになると炎がめらめらとゆらめき、学校を燃やしていった。  佐藤が学校から逃げているのが目に映った。遥か遠くにいる俺を見て怯えていた。  体が燃えるように熱くて、手で炎を振り解こうとすると、火の粉が街に落ちて、古びた家々が火事になっていた。  次々と魔法が勝手に発動していた。身体が捻じ曲げられるほどの痛みを感じた。  俺はこんなことしたくないのに止まらない。夥しい人々が泣き叫ぶことが聞こえた。  身体が熱い。もうやめてくれ。俺は誰も傷つけたくないんだ。突然、街の方から大きな声が聞こえた。 「我々は機動隊だ。君は完全に包囲されている。今すぐ地上に降りて、人や建物を攻撃するのをやめなさい」  俺は危険人物とされているようだ。俺が自分の魔法を制御できずに空中で苦しんでいると、機動隊からライフルで撃たれた。  人々は地面に落ちた俺を怯えた目で見ていた。 どろりとした血が胸から溢れ出ていた。  鼻腔を刺激する血の臭いが充満していた。胸は熱く身体は冷たくなっていった。俺はここで死ぬのだろうか。  こんな本を読まなければ良かった。俺は自分の人生を変える運命の一冊に出会ってしまった。
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