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邸の中は薄暗く、あまり掃除が行き届いているとは思えない。
事前に聞かされた話によると、住んでいるのは神子さまと護衛騎士。通いの掃除婦はひと月に一回程度というから、定例清掃に入ってからしばらく経っているのかもしれない。
ミノンが派遣されるにあたって、それらの手配もなくなると聞いているので、仕事始めは屋内清掃から、といったところか。がんばろう。
掃除の手順などを考えつつ無遠慮に見渡していることに気づいたのか、応対に出てくれた年上の男性――おそらく彼が護衛騎士――が、ミノンに声をかけてきた。
「大丈夫ですよ。さすがに床に穴が開いているとかで、聖女さまを転ばせる危険はないですから」
「……失礼しました」
まず通されたのは応接室であろう部屋。
豪華なソファーに浅く腰かけて待っていると、やがて男は誰かを連れて戻ってくる。
おそらく彼が神子なのだろう。
柔らかそうな金髪に白い肌、蒼天を宿した清廉な印象の瞳でこちらを見たあと、顔を歪めた。
そんな表情であっても麗しさは損なわれず、これが神に選ばれし者の美貌なのかと感嘆の息が漏れた。
「わかいおんなじゃないか」
しかし開口一番、高い声でそんなことを目の前の幼児がのたまったので、ミノンの顔も歪んだ。
なんだこの失礼なお子さまは。
神子さまか。
そうか。
うなずいてミノンは立ち上がり、神子の傍に寄るとその頭をぶっ叩いた。
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