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隣に座って本の内容を説明してくれていたフィルの頭を撫でる。
柔らかな金色の髪。子どもの頭部はどうしてこんなにも温かく可愛らしいのだろう。
愛でたい気持ちが止められず、ミノンは小さな頭を抱き寄せて、美しい金髪に頬ずりをする。ああ可愛い。
「や、やめろ! おまえには、はじらいというものがないのか!! ふよういにおとこにだきつくなど、としごろのむすめがやることではにゃい!!」
腕の中からくぐもった声が聞こえてくるが、無視である。
フィルらしい偉ぶった物言いにはすっかり慣れっこだし、これは照れ隠しであることもわかってきた。だいたい語尾を噛んでいる時点で動揺していることがバレバレなのだ。そんなところも可愛いったらなかった。
「もう、いいじゃないですか。はじめてじゃあるまいし」
「――なんと。俺が知らないあいだにフィルさまが大人の階段をのぼって。おめでとうございます、フィルさま」
「ヨアヒム。おまえわかってていってるだろう!」
「だってもう何度も抱き合っているという証言が」
「だ、だ、だき、だきあ――」
「言えてない言えてない、フィルさま落ち着いて」
勉強会の合間、休憩時のお茶を用意するのはヨアヒムの担当だ。
俺だって茶ぐらい淹れられますよ? と豪語するとおり、彼の用意するお茶の味は悪くないし、お茶菓子のセレクトもいい。
フィル専属の名は伊達ではなかった。ミノンもせっかくなので、他者からの給仕を受けている。
こちらの腕から逃れ、ヨアヒムに食ってかかっているフィルのようすを見ながら、ミノンは焼き菓子を堪能しはじめた。
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