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私は当日、ポケットティッシュを手に持ち、座席に座った。
当時に映画館で観れたのはもちろん、再上映は何度もあったし、DVDも
関連書籍も持っている。
それだけ観慣れていても、必ず同じ箇所で泣いてしまう......。
だから涙を拭くと同時に鼻水を止めるティッシュは必需品なのだ。
そして上映が始まった。
私は最前列の左端の席に座り、右隣りは若い素朴な印象の青年だった。
彼の隣は、更に若い高校生くらいの少年で、そういう世代が観ることを
勝手に嬉しくなった。
この作品の良さが、いまの時代にも広まって欲しい。
そんなことを切実に思いながらオープニングを観ていたそのとき......。
え、そんなに?と、驚いた。
右隣りの席の若者が、もう鼻をすすって泣いていたからだ。
えっ!さすがに良さを感じ取るのが早すぎないか?
どうやら彼自身も、自分の涙に戸惑っているらしい。
慌てて膝に乗せていたカバンをさぐろうとして、隣の少年にチラリと
見られてしまった。
私は手にしていたポケットティッシュから2枚ほど取り出して、彼に無言で
横から差し出した。
画面から目を離さないままで『ほれっ』みたいな感じで。
彼が受け取り、無言で頭を下げたのが視界の端から見えて、わたしも軽く
うなづいた。
彼は......それからずっと泣いていた。
最初から最後までだ。
もしかして、監督の身内とかなのだろうか?
という想像と、この泣き具合いで、ティッシュ2枚で足りるのだろうか?
という心配と同時進行しながらも......94分の映画は無事に終了した。
最後には誰かしらが手を叩き、それにつられて観客全員が拍手喝采した。
その......大勢の手の鳴り響く音に紛れて、彼は声を上げて泣いていた。
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