0人が本棚に入れています
本棚に追加
東京の品川にある映画館はスペースは小さいが、最近になって改築されて
ロビーが綺麗だ。
単館、ミニシアターと呼ばれる映画館は、大手の映画館と違って座席数が
少ない。
そういう場所での東京都内でのイベントは新宿や渋谷のほうが比較的に
多いのだが、品川は亡くなった監督の出身地なので20周年記念として
選ばれたのだ。
青年は妙に豪華なソファーに座り、私の渡したティッシュで涙を拭いて
鼻を噛んで、男性にもらったペットボトルを開けて水を飲んだ。
なんだか放っておけなくて、どことなく気がかりで......私は彼の近くの、
柄の良い上質なクッション付きの椅子に腰かけてみた。
「おじさん、この好青年のこと、まかせていいかな?
俺はこれからライヴ観に行くんで」
青年の肩掛けカバンを空いている椅子に置き、自身は布製のバッグを肩に
かけて少年が言ってきた。
「え、ライヴ?これから?若い子は元気だねえ」
全力でオッサンなことを言ってしまったがオッサンなのだから仕方ない。
少年は細い目がなくなるほど笑った。
「ライヴだからってジャンプしまくるわけじゃねえよ。
今回は静かめのやつ。つか、良かったよ、
映画の上映時間が15時とかでさ。
しかもライヴは川崎、めっちゃラッキー」
「そ、そうなんだ」
「うん、そんじゃまあ、お願いしますわ。
そんで好青年くん、お大事に」
「あ、ちょっとだけ、ままま、待って、待ってください!まっ......」
立ち上がって少年を引き止めようとした青年がふらついた。
私は身体を支えて再び座らせた。
それを察して、少年は立ち去ろうとしたこところを戻り、椅子に
座っている青年の目の前でしゃがみ込んだ。
目線を合わせてあげたのだ。
なんという優しい子だろうか......。
「なに?急がないと間に合わないわけじゃねえよ。慌てずに話しなよ」
年上に対してひたすらタメ口だが、ひたすら気遣いが完璧な子だった。
私は更に感心した。
「あなたに、僕の作る映画に出てほしいんです。ダメでしょうか?」
「いいよ」
青年の突拍子なさに少年が即答した。
「い、いいんですか?自分から言っておいて驚いてますけど」
そりゃあそうだろう。
「うん、高2なら断ってるとこだけどさ、高1だからさ、
まだ余裕あるんで。あんた、どう考えても閃いた感じっしょ?
撮影とかずっと先っしょ?高2になってからかも?
それに俺みたいな素人ならモブでしょ?いいよ、面白そうだもん」
頭のキレる子でもあるんだな......しかも映画の裏側に詳しいんだ?
とにかくキャラが濃い。
「あ、は、はい......あの、僕、大学で映画学科で、
卒業制作で映画を撮るんです。
だから、そんな超大作というわけじゃないし、
そこまで時間は取らせません。
それで、あなたの佇まいとか個性的な顔立ちとか、
これはいけるって思ったんです」
「あはははっ、うさんくせえ顔ってよく言われるよ」
「いえ、かなり映像映えする顔です」
「え、そんなに?」
そうして彼らは、とりあえず連絡先だけ掴んでおこうと。
ネットアカウントをフォローし合った。
「おじさんもフォローしていい?せっかくだから仲良くなろうぜ」
ポカーンという顔そのもので2人をみつめていたら。
少年が立ち上がって言ってきた。
「え?おじさんもいいのかい?」
「いいよ。だって映画ってネタバレ有りで語り合いたいじゃん。
そのうちネットの会話機能とかでガッツリ話そうよ」
「あ、それはいいね!
身近では、今回の作品をネタバレで話せる相手がいないんだ」
こうして私たちは、実生活で出会って。
ネットへとつながりを移行させた。
私は、御坂直道(みさか なおみち)
少年は、真乃纏 (まの まとい)
そして青年は、天地日向(あまち ひなた) という名前だった。
最初のコメントを投稿しよう!