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真乃纏が長く細い指の手を振って去っていった。
ライヴかあ......あの手を振り上げたりしてノリノリになるのだろうか?
息子と娘を持つ身だが、まだ中学生なので、映画はともかくライヴは
よくわからない。
というか、純朴青年の天地日向と2人きりになり、私は少し戸惑った。
えっと、何を話せばいいんだろう?まだ顔色の悪い彼を置いては帰れない。
君さ『あまち』って名字は『てんち』と読まれて困ったりする?なんて
聞こうとしたら......。
「初めて......観れたんです」
天地が、つぶやくように言いいつつ、私に伝えてきた。
「そ、それで、最初から泣いちゃうもの?」
「もちろんDVDでは何度も観てます。でも映画館で、スクリーンで
しっかりした音響で大画面で観れたことに感動して、それで......」
「へぇ、オジサンね、リアルタイムで知ってる世代だから
勝手に誇らしげになっちゃうよ、そこまで熱心なファンがいるなんて」
「あ、それもあるんですけど、俺......映画監督になるのが夢だから」
「そうか、そうだね、そこだよねえ」
「はい。だから、なんていうか......。
悔しさもあったかな。こんなの俺に撮れるだろうか?っていう」
「なるほどねぇ......」
パッと見たかぎりでは『朝ごはんちゃんと食べてる?』とか心配したくなる
ような、ヒョロヒョロの青年だ。
だけどこんな細い身体に、真っすぐな熱い芯が流れているんだな。
だからこそ映画を観て最初から最後まで泣くとか、初対面の男の子に映画に
出てほしいと懇願できたのだろう。
「あっ!あの、あなたはリアルタイムだって、おっしゃいましたよね?」
彼が急に真剣な顔つきになって聞いてきた。
「あぁ、うん。だから......監督が亡くなった事件についても詳しいよ」
「どのくらいですか!? 」
彼が椅子から身を乗り出してきた。
「か、かなり?」
私はたじろいだが、ほんとうに詳細を知っている。
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