告白

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告白

暖かさが終わりを告げ、肌寒さが身にしみる日。静まり返った体育館で健康的な雰囲気を纏っている男がスタスタと壇上に上がった。 「今日から江鰤須田小(えぶりすたしょう)の勤務を命ぜられ、このたび着任した伊集院翔(いじゅういんしょう)だ。よろしく頼む!」 伊集院は体育館に集められている純粋な瞳の生徒たちを前にして気分が高揚していた。それは彼らの視線が伊集院に集まっていたからだ。ムラムラ…。 ザワザワ…。ザワザワ…。生徒たちはざわめき始める。 「おい、佐藤。何なんだ、あの先生は!」 「随分と偉そうだね」 「いや、そうじゃなくてさ」 「分かっているってば」 「なぜ、白の全身タイツ姿なんだ?」 「さあ?」 「あんなピッチピチの全身タイツを着れるメンタルが恐ろしい」 「う〜ん」 怪しむ生徒の視線を浴び、伊集院の瞳はますます煌々(こうこう)と輝いていた。伊集院は視線を集めれば集めるほど自分自身に酔うタイプだった。 「国籍、年齢、性別、それがいったい何なんだ。みんな、俺の姿を目に焼き付けろ。全身タイツを履けば人類みな兄弟。全身タイツの(もと)に平等だ。そして、心の奥に存在する真の自分を解放するんだ!」 体育館の後ろのほうで、佐藤とコソコソしゃべっているのは親友の斎藤だった。 「佐藤、アイツはかなりヤバイ奴だな」 「うん…」 「どうした?」 「いや…」 「顔色が青いぞ!」 「…」 「大丈夫か?」 「あのさあ、斎藤くん」 「ん?」 「父さんなんだ…」 「はあ?」 「あの人は僕の父さんなんだよ!」 「えっ!」 伊集院のただただ自己満足の主張はさらに続く。 「全身タイツは季節の移ろいも(じか)に体感できる。素肌に限りなく近く、全身に感じる風は最高だ。周囲から向けられる視線の鋭さは、もはや全裸と言っても過言ではない!」
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