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三条愛美はのっけから当惑した。先野が指示した地点に出向いたのだが、到着と同時に、ここではないと結論した。
線路は高架ではなかった。地図ではそれがわからなかったが、現地に行って初めて判明した。すぐに先野に電話し、最後に残っていた候補地点に行くと伝えた。
その地点は四ヵ所の候補地のうちで一番遠く、行くだけでも三時間はかかる場所だった。
だがこれで今日一日ですべての地点の調査に取り掛かったことになり、依頼の達成は意外と早くなるかもしれないと感じた。
季節は春から初夏へと向かっていた。社用車の窓を開けても吹き込む風はもう冷たくはない。晴れた空は高く、太陽の日差しはほぼ真上から落ちてきて、紫外線も強くなってきていた。日なたにいると汗ばむほどだが、過ごしやすい一番よい季節かもしれない。こんな日は、仕事だとしてもすごくいいドライブ日和だろう。湾岸の高速道路からの景色は変化に富んで飽きさせない。倉庫が立ち並ぶ埋立地の海岸線、幅の広い河口にかかるトラス橋、停泊している貨物船、ガントリークレーン……。
目的地が見えてきた。三条は高速道路を降りた。あらかじめ調べていたポイントに向かった。
ほんの十分ほどでそこへ到着した。クルマをコンビニの駐車場に停め、降車してからその方向を臨んだ。
だが――。
三条は目を細めた。
見えない。
鉄道と高速道路の高架、発電所の煙突と送電塔、ゴルフ練習場は見えた。だが家電量販店の看板が見えないのである。
もう少し山手の方なら見えるかもしれないと思い、さらにクルマを走らせる。しかし何度か場所を変えてみて確認するも、どうしても家電量販店の看板だけが見えないのだ。地図では存在しているはずなのに、なぜ見えないのか。国道沿いの家電量販店の、遠くからでも見えるよう高く掲げた看板を思い浮かべていたが、そうではないのかもしれない。
行ってみることにした。
ところが――。
三条は愕然とする。
駐車場にはロープが張られ、その店舗はすでに閉店している様子だった。高く掲げた看板も取り外されていた。これでは見えないのも道理である。
(閉店したのはいつなのか──)
枯橋彩葉が電話で伝えてきた数日前はまだ閉店していなかったのか、それとも閉店はもっと前からなのか確かめる必要があった。
三条は、その隣にあった――といっても数十メートルは離れていたが──クルマのディーラーに行って聞いてみることにした。
メーカーの看板の下にある大きなガラス張りの窓からは、何台かの新車がディスプレイされているのが見えていた。平日のせいか客はいない。
「あの……」
「いらっしゃいませ」
自動ドアを開けて入ってきた三条を見るやいなや、首からネームプレートを下げたスーツ姿の店員が営業スマイルを浮かべて近づいてきた。明るいトップスも映える三条は上品に見えたのか、冷やかしで来た客ではないと思ったのだろう。
しかし、
「ちょっとお聞きしたいんですが、隣の家電量販店はいつ閉店したんですか?」
すると店員は、あ……とやや残念そうにつぶやき、
「二週間ほど前ですね」
と答えた。
「二週間……」
地図が更新されていなかったのだ。
「じゃ、看板の撤去はいつぐらいでしたか?」
「看板、ですか……」
へんなことを訊く人だな、という店員の表情。それから一面ガラス張りの窓から見通せる家電量販店の建屋を見て、
「一週間ほど前でしたかね……」
「一週間前ですか」
「最近はネットで買い物をする人が増えたせいでしょうか、つい半年ほど前にも、少し西へ行ったところの家電量販店が店じまいしてましたね」
店員は訊いてもいないことを言った。その言葉を聞きつつも、三条は、
(とすると、枯橋彩葉からの電話がかかってきた日から考えて、この場所は違うな……)
と結論した。
(となると――)
「どうもお邪魔しました」
三条は礼を言い、そそくさとディーラーを後にした。
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