持ち込まれた難題

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 地図とにらめっこしながら目星をつけることは一人でもできるが、現地へとんで家屋を特定するとなると、もう一人ほど人員は欲しいところであった。  事務所でマネージャに相談した。 「変わった依頼よねぇ……」  長身のマネージャ硯山(すずりやま)達護郎(たつごろう)は、髭剃り跡の濃い頬に人差し指をあてて思案顔。今日もアイシャドーが激しく自己主張している。 「まったくだ」  先野も同意する。この仕事をしてもう十五年近くにもなるが、こんな依頼は初めてであった。 「で、どうなの? 見つかりそう? その……依頼者の元カノってのは……」 「元カノじゃない、別れてしまったわけじゃないからな」 「でも一年も音信不通だったんでしょう?」 「そうだな……。最初のうちは心配はしていたようだが、そのうち自分は振られてしまったんだろうと思ってあきらめていたそうだ」 「ヤバい男につかまっちゃったのかしら?」 「ありえるね……。マインドコントロールされてしまっているかも」  軟禁されていても抜け出せないというのはよく聞く話だ。強力な暗示によって、どんなに苦しくても逃れられないのだ。冷静に考えることができないそのつらさは当事者でないとわからない。嫌なら逃げればいいのにというのは、現実を知らない者の意見だ。 「ともかく、手伝ってくれるスタッフを見繕ってほしい」 「わかったわ、スケジュールを確認してみる」  新・土井エージェントは、三十名の探偵を抱えている興信所であった。各自案件を任され、日夜街に飛び出して依頼をこなしている。浮気調査、身辺調査、はてはペットさがしまで、警察では対応できないさまざまな「お困りごと」を本人に代わって調査する。しかしそれぞれの案件にどれくらいの日数を要するのかは場合による。そのためスケジュールを事前に組むということがほぼできない。各探偵に穴があかないよう調整する仕事が重要になる。それを一手に引き受けているのが硯山マネージャだ。 「サブで回せる人員をピックアップしておくわ」 「頼むよ」  先野は、立ち去るマネージャの左右に揺れる腰を見送ると、自分のデスクについた。
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