持ち込まれた難題

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 最初に考えたのは煙突だった。  煙突は工場に多いが、どんな工場にもあるかといえばそうでもない。むしろ煙突のある工場のほうが少ない。高熱の発生する設備のあるプラントを擁する工場、もしくは火力発電所やゴミ処理場などに絞られる。焼窯や銭湯の煙突というパターンもなくはないが、煙突が二本見えたということから、そういった小規模な施設は除外。  火力発電所。発電所からのびた高圧電線が送電塔を経由して変電所へと至るわけだから、おそらく見えたのはそれではないかと考えた。すると、かなり場所の候補は限られてくるだろう。  事務所の隅の会議テーブルに広域地図を広げ、検討を開始する。  近辺の火力発電所にチェックを入れていき、近くに線路と高速道路がないかを見ていった。見つかると、次は近くに家電量販店とゴルフ練習場がないかをさがす。こうやって絞り込んでいき、あとは現地にとんで枯橋彩葉(ターゲット)の写真を手がかりに聞き込みだ。候補の絞り込みは地図上でできたが、それ以上は現地に行かないと進まない。  もっとも、見当をつけたのはあくまで近隣の県を含んだ範囲内の地域であり、日本国じゅうを調べるわけではない。遠く離れた場所に軟禁されていたとしたら、まずさがし出せないだろう。民間の興信所にそこまでのマンパワーはないし、依頼者としても発生する費用をまかなえない。そこは残念だがあきらめてもらうほかない。  四ヵ所に絞り込めた。 (火力発電所って……意外と多いんだな……)  発電所といえば、原発の場所を示す日本地図がよくテレビや新聞で見かけられるが、火力発電所となるとどれだけの数が作られているのか話題にならない。  火力発電所用の石炭や液化天然ガスなどの化石燃料は海外から船で輸送される。そのため発電施設は海沿いに作られる。昔から人の住んでいる場所に近いのもうなずけた。ゴルフ練習場や家電量販店もいっぺんに見えたという話も信憑性がある。 (とりあえず、一番近い場所に行ってみるか――)  先野は壁にかかったアナログ時計を見上げ、さっそく調査にでかけることにした。日暮れまでの時間を考えると、今日のうちに調べられるのはせいぜいそのうちの一ヵ所ぐらいだろう。
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