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原田翔太は、探偵としてはまだ見習いといっていい二十三歳の青年だ。メインで案件を任されることはなく、他の探偵のお手伝い――サブとして仕事をこなしていた。
今回もそうであるが、先野から概要を聞き、四ヵ所の候補のうち一ヵ所を任されることになった。なので、サブというよりもメインに近い。そろそろステップアップしてもいい頃だ。
「一日たっぷり費やすことになるだろうが、まぁ、がんばってくれ」
「はい、がんばります」
元気よく返事をし、意気揚々と出かけていった。
だが指定された地域は、確かに地図上では、発電所、ゴルフ練習場、家電量販店が近かったが、それらがいっぺんに視界に収まりそうな場所というとかなりの広範囲で、枯橋彩葉の居場所を特定するには骨が折れそうだった。
現地へ向かったものの、どこから手をつけていいものか手探りでさがしていかなくてはならない。前日の捜索についても先野から聞いていたから、ともかくそのとおりにやっていこうと、片っ端から聞き込みをすることにした。
手がかりの一つである家電量販店に行ってみた。
国道沿いに店を構えるその家電量販店は、二階建ての屋上に巨大な看板を掲げ、かなり遠くからでも見えそうだった。
平日午前の開店時刻間もない平面駐車場に他にクルマはなく、店の出入り口に一番近い場所に社用車を停めると、突入するように店内に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
そろいのユニホームを来た店員が出迎える。
原田はつかつかと一人の男性店員に歩み寄り、
「すみません、こういう人、見ませんでしたか?」
スマホの画面に表示させた写真を提示した。
「さぁ……見かけないですねぇ……」
首を傾げる店員。
「枯橋彩葉さんというんですが、こちらでなにか買っていましたら、記録が残るんですよね?」
「はい、お客様カードをお持ちでしたら。しかし、もしその名前に該当するお客様がいらしても個人情報に関することはお教えできないんです」
個人情報保護法。個人情報とは、本来なら個人を特定できる情報のことなのだが、いまやプライバシー全般に関わるすべてが対象であるかのように拡大解釈されている。探偵としてはなかなかにやりにくい風潮である。
そこで原田は名刺を差し出す。
「ぼくは探偵でして、お客さんからこの人の捜索を依頼されています。一年前から行方不明になっているということで、もし見かけましたらこの電話番号に連絡をもらえたらありがたいです」
「探偵さん……ですか?」
店員は目を丸くした。
「探偵なんてホントにいたんですね」
「いますよ」
「いや、しかし……」
店員は名刺を眺めながらも、はい、と気安く請け合ってはくれなさそうである。個人的には協力したいところではあっても立場上できないといった様子。
「ご心配はいりません。この人を見つけられたとしても、本人の意志は尊重して居場所を知られたくないとなれば、依頼主であっても報告しませんので」
DVから逃げてきた、という可能性もあるわけで。
「そうなんですか……」
「ですから安心してください。個人情報を漏らすことはないですし、守秘義務は守りますよ」
「わかりました……。もし見かけましたら連絡します」
「ありがとうございます」
原田は笑みを返し、家電量販店を後にした。
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