その本を開けては、いけません。

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ここは、どこだろう。 ゆずりは、所在無げにうろうろと辺りを見回す。 本が自分を読んでいた。 書店の棚の片隅に、その本はあった。 自分の趣味ではなかったが、買わなくてはいけないという気持ちになった。 そして、部屋で1ページめくって……… 「これが、……あの噂の本なのかな」 状況としては間違いない。 そうだろうなあ、きっと。 でも、どういう話なのか、その背景すらわからない。 へたに興味を持つと……、としいやは言った。 友人の忠告は聞くべき。 まさしくそうだ。 では、取り込まれた場合はどうしたらいいのだろうか。 へたに動かない。 状況を把握するために、動くのもいいだろう。 だけど、動いたら命取りの場合もある。 幸いにして、どこかの路地らしい。 ここにいれば、しばらくは大丈夫だろう。 一息つく。 瞬間、耳を劈く破裂音。 どさり、と何かが倒れる音。 この路地から近い場所。 ゆずりは、頭を守るようにしゃがみ込む。 もしかして、ここは。 本当に殺し屋が蔓延る………。 ゆずりは、ゾッとした。 コツ、コツ、と革靴がコンクリートを叩く音がする。 路地を覗き込まれたら、自分も死ぬ。 殺される。 震える肩に、置かれた手。 「おまえ、何か知ってるか?」 声は驚くほど優しく響いた。 ふるふる、と首を横に振る。 「そうか。……なあ、おまえ。ここの人間じゃないだろう?」 こくり、と頷くと密かに笑う気配。 「ごめんな」 切ない声に、振り返る。 年若い……ゆずりよりも少し年上と見える男が切なく瞳を揺らしてしゃがんでいた。 「なあ、助けてくれないか?」 甘いことばに用心しろよ。 ゆずりは、優しいから。 友人のことばが、脳を揺らす。 「………戻れるなら、手伝います」
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